本紙1月5日号を読んだ読者から以下のような指摘をいただいた。特集記事の中で、北海道などⅠ地域の次世代省エネ基準の「ボーダー仕様」を熱損失係数(Q値)で1.5W、住宅金融公庫見なし仕様をQ値で1.4Wとしているのは、住宅のプランにもよるが一般的ではなく、ふつうはボーダー仕様でQ値が1.6~1.7W台、見なし仕様が1.5W台となるはずだ、という内容だ。
ここではこの読者の声をきっかけに、あらためて断熱スペックとQ値について見ていきたい。
勇和建設・齋藤社長からの指摘
この指摘をいただいたのは、札幌の工務店である勇和建設(株)・齋藤保雄社長。まず、齋藤社長に心から感謝するとともに、しっかりとQ値計算を行って住宅を供給されている同社に敬意を表したい。
さて、本紙1月5日号で説明が不十分だった点も含め、あらためて次世代省エネ基準とQ値を見ていきたい。
平成11年に登場した次世代省エネ基準は、当初国内の住宅の断熱性能を世界のトップ水準に近づけるものとして期待され、熱心なビルダーがいち早く取り組んできた。しかし、同基準は公庫仕様書に掲載されている仕様規定、いわゆる「見なし仕様」のほか、熱損失係数計算を行うことによって外壁100ミリミリ断熱など基準値(Q値=1.6W)ぎりぎりの断熱厚でクリアする、いわゆる「ボーダー仕様」も認められる二面性を持っている。
そして、100ミリミリ断熱で次世代省エネ基準をクリアする最大のポイントは、開口部(窓)に次世代省エネ基準の見なし仕様を上回る熱貫流率2.0Wのアルゴンガス入りLow-Eペアを採用することにある。
アルゴンガス入りLow-Eペアガラスのプラスチックサッシは、今や寒冷地の主流となっており、価格的にもアルゴンガスの入っていないタイプ、すなわち次世代省エネ基準が定めるLow-Eペアとほとんど変わらない。
室蘭工業大学・鎌田紀彦研究室が開発した熱損失係数計算ソフト(QPex)でサッシの仕様だけを変えてQ値を計算すると、ボーダー仕様ではアルゴンなしが1.62(W/m2・K、以下同じ)程度で次世代省エネ基準をクリアできない場合がある一方、アルゴン入りは1.55程度となり、ほとんどの場合に基準をクリアできる。また、見なし仕様ではアルゴンなしが1.48程度、アルゴン入りが1.41程度。
Q値計算によってわかることは、100ミリミリ断熱でも市場で一般的なアルゴンガス入りLow-Eペアを採用するだけで、次世代省エネ基準をクリアできること、そして窓の断熱性能によってQ値が大きく変動するという点だ。
仮にサッシサイズを変えずに木製のトリプルアルゴンLow-Eガラスに変更すると、見なし仕様では1.26程度、ボーダー仕様でも1.39程度にアップする。
性能情報の開示を
見なし仕様の場合、現在市場に出回っている最も一般的な製品を使用すると、在来木造では外壁が高性能グラスウール16K100ミリミリ充てん+押出スチレンフォームB3種25ミリ外張り付加、天井断熱がブローイング300ミリ、基礎断熱が押出スチレンフォームB3種100ミリとなり、窓はプラスチックサッシ・アルゴンガス入りLow-Eペアガラスとなる。
基礎断熱の場合は水切りの納まりや見た目のスッキリさなどを考え、布基礎の内外に張り分けて、合計の厚さを100ミリとするケースも多い。また、外壁の断熱付加を押出スチレンフォームではなく、グラスウールボード32K45ミリや同48K25ミリ、フェノールフォーム20ミリなどにするビルダーも増えてきている。
一方、ボーダー仕様は外壁以外の断熱仕様を変えず、外壁は新省エネ基準同様に高性能グラスウール16K100ミリミリで計算した。
Q1.0住宅、無暖房住宅など、暖房エネルギーの削減をテーマにした住宅が相次いで発表される中、Q値計算は工務店・ハウスメーカーにとって必要不可欠のものとなりつつある。重要なのは数値競争ではなく、実質的な断熱性能の向上にあるが、このとき大切なのは床・壁・天井の断熱厚と開口部の性能であることを今回あらためて確認しておきたい。
また、これまでのアルゴンLow-Eペアのほか、真空ガラスのペアなど、さまざまなガラスのバリエーションや空気層が14ミリというペアガラスも生産可能になっているという。サッシメーカーはこれらの断熱性能値をぜひ試験し、Q値計算に使えるように情報提供してほしい。
次世代省エネルギー基準による必要断熱厚(在来木造充てん断熱、Ⅰ地域)
部 位
|
見なし仕様
|
ボーダー仕様
|
天 井
|
BW300ミリ |
同左 |
屋根*1 |
高性能GW16K265ミリ |
同左 |
壁*1
|
|
高性能GW16K100ミリ+押出B3種25ミリ |
高性能GW16K100ミリ |
中間階の横架材部分 |
押出B3種25ミリ |
なし |
床 |
外気に接する部分 |
高性能GW16K200ミリ |
同左 |
その他の部分 |
高性能GW16K135(150)ミリ |
同左 |
土間床等の外周部 |
外気に接する部分 |
押出B3種100ミリ |
同左 |
その他の部分 |
押出B3種35ミリ |
同左 |
窓 |
(プラスチックサッシ Low-Eペア) |
乾燥空気封入 |
アルゴンガス封入 |
乾燥空気封入 |
アルゴンガス封入 |
熱損失係数 概算(W/㎡・K) |
1.48 |
1.41 |
1.62 |
1.55 |
BW:グラスウールブローイング、GWとはグラスウール、押出とは押出法ポリスチレンフォームをいう
K:密度を表し一般に高密度ほど断熱性が高い。またB*種とは性能種別で3種がもっとも断熱性が高い
上記の仕様は公庫仕様書をベースに断熱区分の中で最も一般的と思われる断熱材を使って5㎜単位で切り上げ表示した。
このため高性能GW16KやGW24K(λ=0.038W/m・K)では表中の断熱厚より若干薄手化が可能な場合がある
*1:断熱手法のバリエーションは様々考えられる
断熱性能別の年間暖房灯油消費量( )及び灯油代(カッコ内が灯油代)
地域
|
仕様
|
Q値 (W/㎡・K)
|
延床面積(㎡)
|
120㎡
|
140㎡
|
160㎡
|
180㎡
|
200㎡
|
札幌・ 軽井沢 |
150ミリ断熱 |
1.2
|
840 |
980 |
1,120 |
1,260 |
1,400 |
(58,900) |
(68,700) |
(78,600) |
(88,400) |
(98,200) |
次世代省エネ見なし仕様 |
1.4
|
980 |
1,150 |
1,310 |
1,470 |
1,640 |
(68,700) |
(80,200) |
(91,600) |
(103,100) |
(114,600) |
次世代省エネボーダー仕様 |
1.5
|
1,050 |
1,230 |
1,400 |
1,580 |
1,750 |
(73,600) |
(85,900) |
(98,200) |
(110,500) |
(122,700) |
函館・ 室蘭・ |
150ミリ断熱 |
1.2
|
800 |
940 |
1,070 |
1,200 |
1,340 |
(56,100) |
(65,500) |
(74,800) |
(84,200) |
(93,500) |
次世代省エネ見なし仕様 |
1.4
|
940 |
1,090 |
1,250 |
1,400 |
1,560 |
(65,500) |
(76,400) |
(87,300) |
(98,200) |
(109,100) |
次世代省エネボーダー仕様 |
1.5
|
1,000 |
1,170 |
1,340 |
1,500 |
1,670 |
(70,100) |
(81,800) |
(93,500) |
(105,200) |
(116,900) |
旭川 |
150ミリ断熱 |
1.2
|
1,040 |
1,220 |
1,390 |
1,560 |
1,740 |
(72,900) |
(85,100) |
(97,300) |
(109,400) |
(121,600) |
次世代省エネ見なし仕様 |
1.4
|
1,220 |
1,420 |
1,620 |
1,820 |
2,030 |
(85,100) |
(99,300) |
(113,500) |
(127,700) |
(141,800) |
次世代省エネボーダー仕様 |
1.5
|
1,300 |
1,520 |
1,740 |
1,950 |
2,170 |
(91,200) |
(106,400) |
(121,600) |
(136,800) |
(152,000) |
帯広・ 釧路・
北見・ 網走・ |
150ミリ断熱 |
1.2
|
1,010 |
1,180 |
1,350 |
1,520 |
1,690 |
(71,000) |
(82,800) |
(94,600) |
(106,500) |
(118,300) |
次世代省エネ見なし仕様 |
1.4
|
1,180 |
1,380 |
1,580 |
1,770 |
1,970 |
(82,800) |
(96,600) |
(110,400) |
(124,200) |
(138,000) |
次世代省エネボーダー仕様 |
1.5
|
1,270 |
1,480 |
1,690 |
1,900 |
2,110 |
(88,700) |
(103,500) |
(118,300) |
(133,100) |
(147,900) |
盛岡・ 青森・ |
150ミリ断熱 |
1.2
|
720 |
840 |
960 |
1,080 |
1,200 |
(50,500) |
(58,900) |
(67,300) |
(75,700) |
(84,200) |
次世代省エネ見なし仕様 |
1.4
|
840 |
980 |
1,120 |
1,260 |
1,400 |
(58,900) |
(68,700) |
(78,600) |
(88,400) |
(98,200) |
次世代省エネボーダー仕様 |
1.5
|
900 |
1,050 |
1,200 |
1,350 |
1,500 |
(63,100) |
(73,600) |
(84,200) |
(94,700) |
(105,200) |
*:灯油1L=70円で計算した。 |