柴田和夫社長
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地球環境への負担を抑えるエコロジカルな暖房として注目されているヒートポンプシステム。なかでも一年中安定した温度の地中熱利用は、ヒートポンプ暖房の“真打ち”とされている。しかし普及へのネックとなっているのがイニシャルコストの高さ。
コストというこの大きな壁に挑戦しているのが日伸テクノ。コストはどこまで下げられるのか。柴田和夫社長にインタビューした。柴田社長によれば、コスト面、性能面両方で家庭用ヒートポンプの普及にメドが付いたという。
北欧メーカーとの交流きっかけに
―戸建住宅とはあまり縁のない会社が、なぜヒートポンプに取り組みだしたのですか
「当社は昭和25年に創業以来、土木、管・さく井工事の専門会社として地すべり対策、治山、急傾斜地の崩壊防止などの防災工事、基礎杭、トンネルなどの掘削・推進工事をメインにやってきました。掘削機械のビット(先端のドリル)部分で二件の特許を持っているなど、トップクラスの技術と実績と自負していますが、ヒートポンプとの出会いは今から十年ほど前、北欧に視察旅行に行ったときが最初でした。そのときは、まだヒートポンプが何かもわからず、月日が流れました。
平成九年に国際蓄熱会議が札幌で開かれ、技術交流をしていたスウェーデンの掘削会社の地元・ウプソラ大学の教授と交流する機会があり、北海道大学の地中熱研究者でIEA(国際エネルギー機関)国際会議の日本代表者でもある落藤澄教授(現名誉教授)を紹介されました。そうした研究者との交流の中で、地中熱利用システムを設置するには、当社が得意とする高度な掘削技術が欠かせないことがわかり、強い関心を持つようになりました」
―日本ではまだほとんど普及していませんが、その原因は何だとお考えですか
「技術的にはほぼ確立していますが、問題は導入時のコストです。スウェーデンでは、40坪程度の戸建住宅に導入するときは200万円以内で済むと言われていますが、日本では4百数10万円もかかり、補助金制度を利用しても300万円前後必要です。コスト高の原因は、岩盤主体のスウェーデンにくらべて地盤が複雑で、敷地面積が狭いために工事がやりにくく、それが掘削コストに跳ね返ることや、ヒートポンプ本体も輸入品を使うと400V仕様なので200Vに電圧を下げるトランスが必要になり、この費用だけで50万円以上することなどが原因と考えています」
3つの改良で導入コスト約半分
―コストダウンは可能ですか
「掘削コストについては、ドイツ製の新型機械を導入し、掘削速度を従来の最大2倍に向上させたので、1メートルあたりの掘削コストが大幅に下がりました。また、採熱管も道内のメーカーと共同で高性能でローコストなポリエチレン製の専用品を開発。これにより掘削―採熱管の埋設―埋め戻しの材工コストが一メートルあたり平均8000円程度、従来のおよそ半分になりました。
ヒートポンプ機器本体については、輸入品はダウントランスなどの費用を含めると100万円以上の価格になりますので、最初から200V仕様の製造ができる国産メーカーに依頼し、コストダウンを図りました。
1.掘削コストの削減 2.専用採熱管の開発 3.国内仕様のヒートポンプ機器の開発 ―この3点の改良でパネル施工や配管分も含めた材工トータルの費用を220万円程度に抑えるめどがつきました。国の補助制度を使えば約150円に収まり、ヒートポンプ普及に向けて一つのメドが付いたと思っています」
―劇的なコストダウンですね
「ええ、そうだと思います。また、私たちは施工だけでなく設計も行います。設計面の改良では、地中から得られる熱量を高い精度で予測するための専用計測機器も開発しました。設計と工事両方を請け負うことで、ローコスト化だけでなく確実に性能が出せるヒートポンプ暖冷房システムを提供することができると思っています」
―最後に、今年やっていきたいことを教えてください
「地表とは異なり、地中熱は1年中温度がほぼ一定のため、夏は冷房として使うこともできます。こうしたメリットを生かすと、地中熱ヒートポンプ利用は、住宅分野だけにとどまりません。病院、福祉施設の建物やビニールハウスなどの農業プラント、堆肥舎での発酵促進用など、可能性は無限に拡がります。今までの研究で得た技術と経験を元に、幅広い分野でヒートポンプ利用を進め、地球温暖化の防止に貢献できればと考えています」
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