平成16年3月5日号から
120万円で地中熱ヒートポンプ
渡島・ノースランドホーム  高い住宅性能と発想の転換
 (有)ノースランドホーム(本社山越郡八雲町、山野内辰男社長)では、昨年暮れに渡島・上磯町に完成させたモデルハウスで初めて地中熱ヒートポンプ暖房システムを採用、機器本体と掘削工事のローコスト化で暖房設備を含めた材工価格を120万円に抑えることに成功し、その後実測中のランニングコストも想定した範囲内に収まっていることから、同社の戸建て住宅の標準仕様として採用する意向だ。


今回建設されたモデルハウスの外観。玄関ポーチと一体化した手前のRC物置部分にヒートポンプが収まっている


PFP工法で構造材を現しにした室内
劇的コストダウン
オーガーで掘削費僅か 15万円

 同社では、住宅からのCO2排出量を減らすことを目的に、省エネルギーでCO2排出量が少ないと言われるヒートポンプ暖房の導入を検討してきた。一般に、暖房用ヒートポンプの熱源は換気廃熱、外気、地中熱の三種類あり、その中で地中熱はCOP(成績係数)に一番優れ、外気の条件に左右されず年中ほぼ一定の温度を採熱できるため夏場は冷房に利用できるなど、性能面でのメリットは多いが、採熱管を埋設するための掘削コストが最低100万円以上かかり、これに暖房機器代や工事代を入れると300万円前後かかるため普及が進まなかった。
 これに対し同社では、今回竣工したモデルハウスに簡便な掘削方法を導入、ヒートポンプユニットも国産機器を購入することでイニシャルコストを大幅に削減、一般的な灯油セントラル暖房システムの材工価格と大差ない約120万円に収めることに成功した。
 モデルハウスは、PFP工法で延床面積は約147平方メートル(約四四坪)。熱損失係数は設計値で1.31ワット、相当隙間面積は実測で0.23平方センチ/平方メートルと次世代省エネ基準を2割前後上回る性能。
 暖房設備のコスト削減は、こうした高断熱・高気密設計で暖房負荷を低くしたため、従来総延長100メートル程度必要と言われていた採熱管を今回は10メートル管六ヵ所、総計60メートルに抑えた。さらに、採熱管はふつう25メートルから50メートルまで深く掘る必要があり、そのために専用の掘削機が必要となるが、今回はパイル工事会社に依頼してパイルを打ち込むためのオーガーという機器を使って深さ十メートルほどの浅い穴にして掘削コストを大幅に削減。このほか、採熱管も安価な架橋ポリエチレン管を採用するなどの工夫で掘削費用は15万円で済んだ。
 暖房機器は、キーテック工業(株)(本社函館市)の地中熱ヒートポンプユニットを導入、機器本体の設置は運転音対策なども考え、建物本体から少し離れた物置内とした。
 電力契約は、ホットタイム22。コンプレッサー出力は1.5キロワット、COPは当初は実測値で2.8程度だったが、冷媒の調整と放熱量の増加で最近は3.2~3.5をキープ。
 システムの概要は、採熱管から採熱した地中熱をヒートポンプ内で熱交換し、さらにコンプレッサーで圧縮することで冷媒を高温にして温水を作り、放熱パネルや放熱器を利用して暖房する。放熱器は、1階が基礎断熱された床下空間に8台設置して床下を暖め、窓際に設けられたガラリから暖気を出す。180ミリ厚のベタ基礎のため、蓄熱効果で効率よく暖められる。2階にはパネルを3台設けている。放熱器が多いのは送水温度が灯油の暖房ボイラーよりも低いヒートポンプ暖房の特性に対応するため。一方、夏場はコンプレッサーを止め、地上より涼しい地中熱を利用してファンコイルユニットで冷風を作り出し冷房する。電力消費は冷媒循環用のポンプだけで済むので電気代は極めて低く抑えられる。ファンコイルユニットは二階天井ふところに設置しており、冬は急速に室温を上げたいときに、夏は冷房用に使用する。 

キーテック工業の地中熱ヒートポンプユニット
1階は床下放熱した後、窓際のガラリから暖気を出す
採熱管を埋める穴を掘削中の現場。施工法は通常のパイル工事と変わりない
COP=3.6も
同社 今後標準仕様へ

 竣工後は、採熱管付近の地中温度、温水の送水温度、1階と2階の室内温度を継続して測定しているが、室温は概ね20℃以上に保たれ、送水温度は40℃台前半で推移し、地中温度も安定している。ランニングコストは、1ヵ月平均で約1万円(ヒートポンプ暖房のみ)。
 ノースランドホームの山野内社長は、「現在は試行錯誤の段階だが、それでもこのような良い成績が出て驚いている。放熱量を増やして送水温度を35℃まで下げると、COPが最大3.6程度まで向上することがわかっており、次に施工する住宅ではもっとスマートに高性能が出せると思う。地盤がN値=3~5までならオーガーで施工できるので、函館市内なら約6割の宅地があてはまる。ランニングコストが安く、冷房も安価に実現できることを武器に、他社との差別化提案に積極的に使っていきたい」と話している。


モデルハウスの暖房配置と配管経路図

価格は新築の2/3
小樽・北美建 新築並み断熱・気密改修
 (有)北美建(小樽市、今北光春社長)では、2月21、22日の2日間、リフォーム完成現場内覧会を小樽市内で開催。当日はリフォームだけでなく新築を検討しているユーザーも含め、多数の見学者が訪れた。 

骨組みから構造チェック
 会場には、改修前の住宅の浴室まわりに使われていた腐食した構造材、改修に使用した構造用集成梁・ヒバの集成土台のサンプルなどを展示。なぜ木材がここまで腐食したのか、家を長持ちさせるにはどのような製品を使い、どのような工法が必要なのか、という今北社長の話に見学者は熱心に耳を傾けていた。
 同社が公開したリフォーム住宅は、在来軸組工法で建てられた築20年の木造2階建て。ユーザーの要望を元に行われた改修工事は1.三角屋根から無落雪屋根へ変更2.2階に部屋を増築3.水廻り設備の全面入れ替え4.構造体や断熱・気密の改修。この中でも一番のポイントは構造体や断熱・気密の改修工事だ。
 最初に壁や天井などを解体し骨組みだけの状態からチェックを開始。土台はしっかりとした状態で残っていたが、床下の防湿対策(グランドシート)がなかったために一部分の大引が腐食していた。腐食していた大引きを取り換えて、床下の湿気を抑えるためにグランドシートを施した。このほか、タイル貼りの浴室だった浴室まわりの構造材に腐れがあった。変形した無垢材は集成材に その他の構造材は通気層が施工されていたこともあり、比較的健在。柱や梁などの構造体には全て無垢材が使われており、反りやねじれを起こしている部分については集成材に変更したが、特に問題のない部分はそのまま残すか耐久性や強度を維持するために補強を施した。
 2階については、材料費はかかるが、施工手間の軽減を考えて既存の柱・梁はすべて撤去し、胴差しの上に2階の土台を敷いて新たにプレカット集成材で組み直した。

構造用集成梁・ヒバの集成土台のサンプルなどを展示。来場者はヒバの香りを確認
浴室まわりの腐っていた構造材も展示
2階は既存の柱・梁を撤去しプレカット集成材で新たに組み直した。室内側に気密層を確保しグラスウールを充てん。新築並みに性能を高めた


築20年を経過した改修前の住宅。わりとしっかりしていたが、雪処理や寒さが問題だった

改修後の外観写真。無落雪屋根にかわったこともあり、リフォーム前の面影はない
リフォームしたリビングの写真。窓から射し込む陽射しが明るいリビングを演出
改修工事は構造体から行い、強度や耐久性を全てチェックした。1階の骨組みには補強を施し、2階は集成材で新しく組み直し。胴差し部分に先張りシートが見える
新築同様の新在来手法
先貼りシートや通気層

 断熱・気密工事は、骨組み以外をすべて撤去したため、新築とほぼ同じ手法の新在来木造構法で施工した。改修前は、当時としては最先端の通気層がEV工法で確保されていたが、室内側の気密層や気流止めが確保されておらず、また通気層にはグラスウールが裸の状態で露出していたため、すきま風が入り寒かった。
 まず、先張りシートなど気密層を室内側に設け高性能グラスウール100ミリを充てんし、シージングボード、タイベックを貼り、通気層を設けて外壁はサイディング仕上げ。床断熱は高性能グラスウール150ミリ、天井はブローイング200ミリと新築並に性能を高めた。
 暖房は温水セントラルヒーティング、換気は第三種セントラルを採用。設備面でも新築並みに引き上げた。ユーザーの満足度は高い 施工費は1000万円を超えたが、同じ面積で新築する場合と比べ3分の2の価格で終わらせることができた。これは基礎工事がまったくかからなかったことが大きいという。
 同社の今北光春社長は「ユーザーにとって、新築の3分の2で終わるリフォームを選ぶか、新築にするかは考え方次第だと思うが、新築並みに性能を引き上げられれば、リフォームでもユーザーの満足度は高いことがわかった。ただリフォームは既存部分の診断など現場での判断が重要なので、新築工事より難しいとも言える。ここまで大規模な改修工事は今回が初めてだったので、貴重な体験ができた。住宅性能を実感してもらうには冬場の完成現場見学が不可欠。来年も冬場にぜひ実施したい」と話している。


before after




試読・購読はこちら

このページの先頭へ

運営サイト

株式会社北海道住宅新聞社
〒001-0029 札幌市北区北29条西4丁目2-1-201
tel.011-736-9811 fax.011-717-1770

当サイトで使用している写真およびテキストの無断転載を禁止します。

Copyright (c) 北海道住宅新聞社. All Rights Reserved.