断熱が欠陥だらけの住宅と欠陥のない住宅(昭和60年:本紙主催のセミナーテキストを一部加工)
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間仕切壁の中は強烈な冷風
今回から、在来木造の問題点を洗い直してみたいと思います。
在来木造は床下や壁の中を空気が走る構造になっています。空気は風と温度差で動きますが、暖房している冬場は床下と室内で常に温度差が発生し、それを動力に外壁面だけでなく間仕切壁の中を“びゅーびゅー”風が走っています。
この風はどのくらいでしょうか。これは体験することができます。以前、気密化していない在来木造の1階間仕切壁、床付近についているコンセントプレートをはずしてみたことがあります。壁の中はヘア・ドライヤーの冷風のような強さで風が2階に向けて吹き上がっていました。『このすごい風はどこから来てどこへ抜けるのだろう?』と不思議になるほどの強烈なドラフトでした。
間仕切壁では床下のプラス数℃の空気を吸い込み壁面で室内の熱をもらって暖まりながら小屋裏へ抜けているのです。間仕切壁はいわば熱交換パネルとなっており、室内の熱をひたすら小屋裏へ運び出しているのです。
外壁面はどうか。外壁にはグラスウールなどの断熱材が詰まっており、間仕切壁ほどの中空構造ではありません。しかし外壁は常に風の影響を受けています。この風の力も手伝って床との取り合いなどから空気を吸い込み、一部は小屋裏へ抜け一部は外壁側で冷やされて結露します。
北海道で築20数年の住宅は、気密化工法ではない住宅でも、暖かさのために何らかの工法改良をしています。こういう住宅では、外気が0℃付近まではさほど寒くないものです。ところがマイナス5℃程度まで下がると、暖房を大きくしても暖かくなりません。これは、窓からの冷気などもあるのですが、温度差によって壁の中のドラフトが強くなり、熱をどんどん持ち去ってしまうからだと考えられます。
床下から小屋裏に抜ける気流の影響で、グラスウールが黒く汚れてしまっている |
熱と一緒に湿気も壁の中へ
実はもう1つ、重大な問題があります。それが湿気の動きです。
在来木造は暖房すればするほど熱を小屋裏などへ運び去ってしまいますが、それと一緒に室内の湿気も逃げていきます。その逃げた湿気が壁や小屋裏で結露し、構造木材を濡らしてくされの原因となるのです。
くされの部位は浴室などの水廻りやサッシまわりのほか、土台付近、小屋裏など、気流の流れに関係する部分に集中します。
床下から外壁の中に入った空気は、地盤の防湿措置が行われていなければすでに湿っており、そうでなくても室内から暖かい空気を吸い込んで湿ってきます。ところが外壁面は0℃付近からマイナス気温。夏場にビールを注いだグラスのように、含みきれなくなった湿気は結露となって水に変化します。この水が壁内に残ってあまり発揮できていない断熱性能をさらに引き下げ、結露を助長するのです。
問題点を整理します。在来木造は床・壁・天井の各面に対し直交する梁や柱があるため、このまわりに大きな隙間が発生しやすく、その隙間から空気が出入りすることで
1.隙間風で快適性が損なわれる 2.暖気が逃げることで暖まらない 3.温度と一緒に湿気も逃げるため壁内結露・木材の腐れを引き起こすC暖房エネルギーが増大する―構造になっているのです。
例えば、床の冷たさを解消するため、内装下地差込式の巾木を使って気密化したつもりでも、壁の中の空気の動きを止めることはできませんから、部分的に隙間風はなくなっても“熱交換パネル”による冷え込みは解消しません。工法改良していない在来木造では、このように内装下地のボードやクロスで暖かさを確保することは不可能なのです。
寒い割には換気はよくない
ここで気密性と換気について考えてみたいと思います。
在来木造は隙間風が多く寒いといわれるわりには、換気はよくありません。高断熱・高気密で0.5回/hの機械換気を行っている住宅では、たばこのにおいは大人数で吸わない限りほとんど残りません。ところが在来木造ではたばこのにおいがなくなりません。その理由はハッキリしないのですが、換気量が思ったほどないか換気効率が悪いか、どちらかでしょう。気密測定をしてみると相当隙間面積(C値)は悪いのですが、C値が悪ければ室内の換気効果は良くなるとは言えないようです。
断熱が薄くて暖かい2×4
同じ木造でもツーバイフォー工法は在来木造とは異なります。充てん断熱で断熱厚が一般的な在来の100ミリより10ミリ薄いツーバイのほうが暖かく燃料消費量が少ないのはなぜでしょうか。それは床・壁・天井の内部で空気の流れがほとんどなく(つまり熱交換パネル現象が起きない)、気密性が高いからです。
一般的にツーバイフォー工法の気密性能は先張り・土間床など特別な工法的気密化をしない場合でC値=5.0/m2と言われていますが、これはアルミサッシを使っていた20年以上も前の話です。プラスチックサッシと断熱・気密玄関ドアを使い、その他の建材も気密性が比較的配慮されている現在では、C値は3〜3.5cm2程度とみられます。
同様に先張りなど特別の工法的気密化をしない在来木造のC値は7〜9cm2程度ですから、ツーバイは在来のおよそ2倍の気密性能と言えます。
モノコック構造は隙間僅か
ツーバイはスタッドや根太などの枠材と構造用合板などの面材で、床・壁・天井・屋根それぞれが独立した一体のパネルを構成し、それらが立体的に接合してモノコック構造を造り上げます。例えば床の一体パネルを作った後、壁パネルをその上に乗せるので、床と壁の取り合いは基本的にはほとんど隙間が発生しない構造です。壁と天井も同様です。さらには、充てん断熱の場合、断熱材は室内側の石膏ボードと屋外側の構造用合板などによってサンドイッチされ、さらに上枠・下枠によって上下も密閉されるため、断熱層内の空気の動きがほとんどなく、このため繊維系の断熱材の断熱性能がカタログスペック通りに発揮されるというわけです。
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