再チェック! 高断熱住宅 気密化はめんどう
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なぜ断熱・気密するか

Q高断熱・高気密住宅をやらなければいけないな、と思っているのですが、実際のところ細かな技術がよく分からないし、いざやろうとすると抵抗があるのも事実です。どこから手を付ければいいでしょうか。
A…高断熱・高気密住宅の先進地とされる北海道でも、新省エネ基準レベルの断熱と次世代基準並みの気密性能(相当隙間面積2cm2/m2)の住宅は、多く見て新築戸建ての60%程度でしょう。いろいろと事情があるとは思いますが、最終的にはユーザーにいいものを提供するため、在来工法の改善が必要なことは間違いありません。ユーザーの幸せのために、高断熱・高気密技術に取り組んでほしいと思います。
 今回から連載で、高断熱・高気密の考え方と基本、そして注意したほうがいい点などを連載したいと思います。これから高断熱・高気密に取り組むかただけでなく、すでに高断熱・高気密に取り組んでいるかたは基本のチェックとおさらいに、高断熱・高気密はこのくらいでいいと考えているかたは改めて、連載を読んでみてください。


ナミダタケに侵食されている床下。
木材を腐らせないことが高断熱・高気密の隠れた大きな目的(写真提供:青山プリザーブ)

 高断熱・高気密住宅に取り組んでいないビルダーの中には、漠然と「“高”気密はよくない」と思っている方が多いようです。これはおそらく現状でよしという意味でしょう。また、ユーザー次第で「要望があれば各種高断熱・高気密工法で対応し、それ以外は在来木造」というビルダーもいます。さらに、在来木造の隙間発生部位について一部に限って気密化を施している例もあります。
 バリアフリーが時代のニーズとなると、ほとんどのビルダーはこれを取り入れましたし、シックハウスが問題になるといち早く法制化され、シックハウス対策が義務となりました。COP3によって温室効果ガスの削減目標がハッキリと示されているのに、高断熱・高気密だけは普及の速度がゆっくりで、法制化も進まないのは、やはり工法改良が必要だからでしょう。工法改良は、ひとことで言えばめんどうです。経営判断だけでなく、設計者、現場管理・帳場さん、そして現場の大工さん、関連職種に周知徹底しなければ、つまり総合的な対策を行わなければ効果が上がらないのです。数年先には大きな違いとなって現れるのですが、外から見ても室内から見ても、その違いは見えません。
 次号からは、在来木造の問題点をおさらいしてみたいと思います。



再チェック! 高断熱住宅 壁は熱交換パネル
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なぜ断熱・気密するか

断熱が欠陥だらけの住宅と欠陥のない住宅(昭和60年:本紙主催のセミナーテキストを一部加工)

間仕切壁の中は強烈な冷風
 今回から、在来木造の問題点を洗い直してみたいと思います。
 在来木造は床下や壁の中を空気が走る構造になっています。空気は風と温度差で動きますが、暖房している冬場は床下と室内で常に温度差が発生し、それを動力に外壁面だけでなく間仕切壁の中を“びゅーびゅー”風が走っています。
 この風はどのくらいでしょうか。これは体験することができます。以前、気密化していない在来木造の1階間仕切壁、床付近についているコンセントプレートをはずしてみたことがあります。壁の中はヘア・ドライヤーの冷風のような強さで風が2階に向けて吹き上がっていました。『このすごい風はどこから来てどこへ抜けるのだろう?』と不思議になるほどの強烈なドラフトでした。
 間仕切壁では床下のプラス数℃の空気を吸い込み壁面で室内の熱をもらって暖まりながら小屋裏へ抜けているのです。間仕切壁はいわば熱交換パネルとなっており、室内の熱をひたすら小屋裏へ運び出しているのです。
 外壁面はどうか。外壁にはグラスウールなどの断熱材が詰まっており、間仕切壁ほどの中空構造ではありません。しかし外壁は常に風の影響を受けています。この風の力も手伝って床との取り合いなどから空気を吸い込み、一部は小屋裏へ抜け一部は外壁側で冷やされて結露します。
 北海道で築20数年の住宅は、気密化工法ではない住宅でも、暖かさのために何らかの工法改良をしています。こういう住宅では、外気が0℃付近まではさほど寒くないものです。ところがマイナス5℃程度まで下がると、暖房を大きくしても暖かくなりません。これは、窓からの冷気などもあるのですが、温度差によって壁の中のドラフトが強くなり、熱をどんどん持ち去ってしまうからだと考えられます。


床下から小屋裏に抜ける気流の影響で、グラスウールが黒く汚れてしまっている

熱と一緒に湿気も壁の中へ
 実はもう1つ、重大な問題があります。それが湿気の動きです。
 在来木造は暖房すればするほど熱を小屋裏などへ運び去ってしまいますが、それと一緒に室内の湿気も逃げていきます。その逃げた湿気が壁や小屋裏で結露し、構造木材を濡らしてくされの原因となるのです。
 くされの部位は浴室などの水廻りやサッシまわりのほか、土台付近、小屋裏など、気流の流れに関係する部分に集中します。
 床下から外壁の中に入った空気は、地盤の防湿措置が行われていなければすでに湿っており、そうでなくても室内から暖かい空気を吸い込んで湿ってきます。ところが外壁面は0℃付近からマイナス気温。夏場にビールを注いだグラスのように、含みきれなくなった湿気は結露となって水に変化します。この水が壁内に残ってあまり発揮できていない断熱性能をさらに引き下げ、結露を助長するのです。
 問題点を整理します。在来木造は床・壁・天井の各面に対し直交する梁や柱があるため、このまわりに大きな隙間が発生しやすく、その隙間から空気が出入りすることで 1.隙間風で快適性が損なわれる 2.暖気が逃げることで暖まらない 3.温度と一緒に湿気も逃げるため壁内結露・木材の腐れを引き起こすC暖房エネルギーが増大する―構造になっているのです。
 例えば、床の冷たさを解消するため、内装下地差込式の巾木を使って気密化したつもりでも、壁の中の空気の動きを止めることはできませんから、部分的に隙間風はなくなっても“熱交換パネル”による冷え込みは解消しません。工法改良していない在来木造では、このように内装下地のボードやクロスで暖かさを確保することは不可能なのです。

寒い割には換気はよくない
 ここで気密性と換気について考えてみたいと思います。
 在来木造は隙間風が多く寒いといわれるわりには、換気はよくありません。高断熱・高気密で0.5回/hの機械換気を行っている住宅では、たばこのにおいは大人数で吸わない限りほとんど残りません。ところが在来木造ではたばこのにおいがなくなりません。その理由はハッキリしないのですが、換気量が思ったほどないか換気効率が悪いか、どちらかでしょう。気密測定をしてみると相当隙間面積(C値)は悪いのですが、C値が悪ければ室内の換気効果は良くなるとは言えないようです。

断熱が薄くて暖かい2×4
 同じ木造でもツーバイフォー工法は在来木造とは異なります。充てん断熱で断熱厚が一般的な在来の100ミリより10ミリ薄いツーバイのほうが暖かく燃料消費量が少ないのはなぜでしょうか。それは床・壁・天井の内部で空気の流れがほとんどなく(つまり熱交換パネル現象が起きない)、気密性が高いからです。
 一般的にツーバイフォー工法の気密性能は先張り・土間床など特別な工法的気密化をしない場合でC値=5.0/m2と言われていますが、これはアルミサッシを使っていた20年以上も前の話です。プラスチックサッシと断熱・気密玄関ドアを使い、その他の建材も気密性が比較的配慮されている現在では、C値は3〜3.5cm2程度とみられます。
 同様に先張りなど特別の工法的気密化をしない在来木造のC値は7〜9cm2程度ですから、ツーバイは在来のおよそ2倍の気密性能と言えます。

モノコック構造は隙間僅か
 ツーバイはスタッドや根太などの枠材と構造用合板などの面材で、床・壁・天井・屋根それぞれが独立した一体のパネルを構成し、それらが立体的に接合してモノコック構造を造り上げます。例えば床の一体パネルを作った後、壁パネルをその上に乗せるので、床と壁の取り合いは基本的にはほとんど隙間が発生しない構造です。壁と天井も同様です。さらには、充てん断熱の場合、断熱材は室内側の石膏ボードと屋外側の構造用合板などによってサンドイッチされ、さらに上枠・下枠によって上下も密閉されるため、断熱層内の空気の動きがほとんどなく、このため繊維系の断熱材の断熱性能がカタログスペック通りに発揮されるというわけです。



再チェック! 高断熱住宅 オプションではない
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なぜ断熱・気密するか

木製窓廻りの断熱。断熱・気密化は奥が深い。基本施工になれたら、ディテールの構成もポイントになる。写真は窓と枠材の間に納めたグラスウール。屋外側はオープンジョイント

 前回は在来木造の問題点をツーバイフォー工法との比較も交えて見直してきました。ポイントは突き詰めれば 1.間仕切壁内の気流 2.壁内結露―の2点であることがわかります。ツーバイフォー工法は構造上どちらも起きにくいため、普通に建てるだけで断熱性能がしっかり発揮される住宅となるのです。
 北海道では徐々にツーバイが増え、今や戸建ての4戸に1戸がツーバイ。しかし、それ以外の多くは在来木造ですし、東北などでは圧倒的に在来木造のシェアが高くなっています。もし、在来木造の工法改良を行わないと、ツーバイフォー工法で建てたユーザーは暖かく、燃料消費も少なく、木材耐久性も高い長寿命の住宅に快適に暮らし、たまたま在来木造で建てたユーザーは隙間風に悩み、燃料消費も多く、耐久性に問題があるという不幸な事態を招くことになります。
 今からでも遅くはありません。ぜひ、地域の一般ユーザーのために在来木造を長持ちする暖かい住宅に改良したいものです。
 暖かくて長持ちする住宅づくりが断熱・気密化の主な目標とすれば、断熱・気密はユーザーから要求があれば実施するオプション工事であってはならないはずです。だれでも家を建てるときは暖かくて長持ちしてほしいと望んでいるからです。“高”気密という言葉に抵抗があるなら、そこまで気密性能を上げなくてもOK。気流止めと結露防止は、相当隙間面積で3cm2/m2もあればクリアできます。
 次に断熱・気密工法は手間とお金がどのくらいかかるか、という点です。どのような気密化工法を採用するかによって手間とお金のかかり方は違いますが、特に慣れないうちはやはり手間とお金が多少はかかります。しかしこれは人と時間に対する投資と考えて納得するしかないのです。
 まず、構造的に気密性能が高いツーバイは、気密化コストはほとんどかかりません。一方在来木造では、一般論としては充てん断熱の場合は手間と管理はかかるがコストアップはわずか、外断熱は比較的気密化しやすい分、コストは多少かかる、と言えるでしょう。
 しかしいずれの工法も、これまで真っ先に高断熱・高気密工法に取り組んだ先人たちが積み重ねた経験やメーカーの部材開発により、十数年前に比べれば手間もお金もかからなくなってきました。



再チェック! 高断熱住宅 手間は坪5000円ほど
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なぜ断熱・気密するか

0.2ミリ厚の防湿・気密シートを施工している現場。幅広規格のため、横張りで楽に施工できる

 気密化工法が始まった当初は、例えば充てん断熱の新在来木造構法についてみると、気密性能確保の要となる防湿・気密シートに現在の主流品である0.2ミリ厚がなく、しかも建築用の幅広規格がなかったため、シートの密着性を高め重ねを取るために大変苦労しました。また、コンセントや天井・床下点検口などの専用部材がなかったため、全て現場で手間のかかる作業をしていました。
 しかし、現在ではこれらの問題は全て解決しているうえ、屋根断熱や基礎断熱といった技術も開発され、気密化部材も普及につれて安くなり、格段に取り組みやすくなっています。
 気密化工事にかかる手間賃は、北海道ではおよそ坪5000円くらい、テープなどの資材を入れても坪1万円程度で収まるはずですし、慣れてくれば時間もコストもほとんど吸収できます。
 手間とお金は確かにかかりますが、それは膨大にかかるわけではありません。耐震性強化や基礎の強化などと同じく、住宅の基本性能を確保するために必要なコストなのです。


最近はシート張りを合理化する治具も登場した。写真はシートをロールのまま取り付けて切り出す“ロールシートカッター”(Tel.0155-62-0814)

慣れれば性能も高い数値で安定
 苦労しながら気密性能を上げてきた先人たちは今、多大な手間とコストをかけることなく相当隙間面積1cm2/m2以下を達成しており、中には0.2〜0.4cm2程度を常に記録しているビルダーもかなりいます。「何もそこまでやらなくても」と思うかもしれませんが、この高い数値は言ってみれば気密化に慣れた結果としてでている面があります。また換気効率を高めるためには高い気密性能が求められるという面もあります。相当隙間面積で1cm2/m2以下の高気密性能のメリットについては連載の後半で触れたいと思います。

気密化で木は腐らない
 あと2点、気密化にまつわる誤解を解消したいと思います。まず1点目は『気密化すると木が腐る』という誤解です。
 ここでいう気密化とは、長期間にわたって木材を腐らせないための技術であることはこれまで説明したとおりです。『木が蒸れる』という言い方もありますが、20年近くになる日本の気密化工法の歴史の中で、木が蒸れたという例は報告されていません。防湿・気密シートの施工中に木材から湿気が放出されてシート面で結露することがありますが、これは心配ありません。まず、結露したからすぐに木が腐るわけではなく、乾燥木材を使っていれば、数年で腐ることはありません。次にこの結露は再び蒸発するなどして通気層から屋外へ排出されます。


気密化と通気層の施工により、壁内で木が蒸れて腐るなどという心配はない

 木が腐るいちばんの原因は、室内側から常に多量の湿気が入り込み、屋外へ排出しきれずに結露することです。この結露は深刻です。そこで室内側に防湿・気密シートを張り、湿気の侵入を防ぐのです。
 誤解のもう1点は、気密化すると窓が小さくなるという点です。フランチャイズなどで北海道型の住宅づくりを強制された経験などから、本州のビルダーが誤解しているケースが多いようです。
 縁側の大きな掃き出し窓となるとプラスチックサッシでは対応できないケースが出てくるでしょう。しかし、ここで気密化をあきらめてしまうと、木造躯体の耐久性に重大な影響が出かねません。気密住宅は窓を小さくしなければならないという決まりはどこにもありません。断熱型アルミサッシなどを使うことで窓の断熱性能が低くても、縁側などの緩衝空間があるなら居住域にさほどの影響はないはずです。まず、躯体を長持ちする構造に変えることがいちばん大切なことです。大金を投資するユーザーのために、決して気密化をあきらめないでください。


気流止めがないと壁内に気流が走り、気密性が高くても寒くなる(左)。壁の上下には必ず気流止めを施工することが高断熱・高気密住宅には欠かせない(右)

新在来工法等参考に
 高断熱・高気密住宅の室内の快適性は、暖かいとか寒いとかいう感覚とは異なる気持ちのいい環境です。ちょっと汗ばめば暖房を落とし、肌寒く感じたら暖房を強くする高断熱・高気密住宅での暮らしには、足元だけの寒さとか隙間風などは無縁。暖房温度を好きに設定し、あとは暮らし方で対応できるとても自由な環境となるのです。全室を22℃に保たなければならないと固く考える必要もありません。ただ、部屋間の温度差は結露を防止するためにせいぜい5℃程度に収めるべきでしょう。
 次に省エネ性能ですが、仮に札幌で40坪程度の住宅を全室灯油暖房するとしたら、高断熱・高気密住宅の灯油消費量は高断熱・高気密もどきの住宅のおよそ3分の2、500リットル程度少なくなります。
 最後に耐久性ですが、今まで説明してきたように、木材の腐れの心配はほとんどなくなります。
 このように高断熱・高気密住宅とは良いことずくめの住まいです。ポイントは、グラスウールなど繊維系の断熱材を使う場合は、断熱材の性能を100%発揮させるために、気密化と同時に壁内の気流止めを必ず設置すること、木材を腐らせないように耐久性に十分配慮することです。具体的には在来木造なら新在来木造構法、ツーバイならR-2000で提案されている工法を、そのままやってみることです。納まりのアレンジは気密化に慣れてからにします。



再チェック! 高断熱住宅 気流止めの先張り
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建て方のポイント


土台の先張りシート。大引きが取り合う部分は、切り開いたシートをテープで補修する。土台側面にシート押さえ材を打ち付けているが、これは根太レス工法の合板受けにもなる。図面は新在来木造構法マニュアルから
 今回からは建て方の工程を追って、在来木造の気密化手法を見ていきたいと思います。
 まず基礎レベルを出して土台敷きを行います。土台と外周壁にかかる大引きなどの横架材廻りはぐるりと先張りシートを張って気流を止めなければなりません。この先張りシートは横架材をかける前に張り、仕口部分のシートを切り開いて大引きなどを組むのが原則ですが、大引きなどをかけてから後張りしても同じです。ただ、先張りのほうがラクなようです。
 仕口部分の切り開きは、カッターで×印に切って、そこに大引きを落とし込めば普通ははまりますが、キツイ場合はカッターで□に切り開きます。□に切り開いた場合、下地で抑えられない部分はテープ止めしておきます。シートが多少よじれても、あまり気にする必要はありません。
 シートの幅は30センチ程度でじゅうぶん。床下からの冷気を壁断熱層に入れないためのものなので、下端は土台の下端程度、上は巾木下地材の上程度の幅があればOKです。
 この先張りシートは、基礎断熱でも床断熱でも必ず行う必要があります。土台の先張りシートを忘れると、気密性能は高くても断熱性能が上がらないというマズイ状態になりかねません。
 先張りシートには普通、0.2ミリ厚の防湿・気密シートを使います。あえてゴワゴワした0.2ミリ厚のシートを使うのは、破れにくく重ねたときの気密性が発揮しやすいからです。継ぎ手は柱部分で重ねをとります。