新聞記事

2014年06月25日号から

燃費保証で高性能を「見える化」

~栃木の地場工務店の挑戦~

 
「安い」って言うけどいくらなの?140625_web_shimano_0372.jpg

光熱費保証している住宅

 
きっかけはオーナーのひと言
 島野工務店が高断熱・高気密住宅に取り組み始めたのは今から16 年ほど前。消費税率が3%から5%に上がり、「建てれば売れる」という好景気が終わった頃で、他社との差別化のためだった。
 全国の優良工務店を見学し、試行錯誤の末に住宅性能は大幅に向上した。押出スチレン100mmの外断熱やエクセルシャノンの樹脂トリプルサッシ(クリプトンガス封入)を採用、すき間相当面積C 値= 0.2cm2/m2など、北海道の高性能住宅並みの仕様をアピールした。
 同社は、OB 客の9割以上を島野社長自身がアフター訪問する。住宅技術には自信があったが、小さなクレームはある。それを早く発見して改善し、満足度向上と紹介営業につなげようという考えだ。訪問時に「冬はほんとに暖かい」など高評価する人がいる一方、エアコンのスイッチが入ってないOB 客の割合が多かったのが気になった。
 「高性能住宅だから、24 時間エアコンを運転し続ける方がむしろ省エネ」とお客さまに何度も説明してきたが、聞いてみると「社長は安いって言うけどどれくらいなの?電気代払ってるのは私だから」とOB 客に言われた。
 そこで、島野社長は過去1年間の電気代をOB 客に声がけして調べた。30 件ほど反応があり、集計すると住宅1 坪あたり月平均250 円以内に収まっていることがわかった。安全を見て、保証金額を1坪300円に設定し、2010 年から光熱費保証を始めた。
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「最近はゼロエネ仕様も多い」と島野工務店(栃木県)の島野社長

 
光熱費を気にせず快適に暮らしてほしい
 1年目はいくらかかっても電気代全額を同社が支払う。2年目、3年目は保証内容の電気代を超えたら、超過分を支払う。それだけでなく、電気代が保証内容を下回ったら、下回った分を施主に支払って還元する。島野社長は、「家族でディズニーランドでも行ってきて」と下回った額をお客さまに渡すとき、喜ぶ顔を見るのが楽しみだ。
 延床面積40 坪の住宅なら、300 × 40 =12,000円×12 =年間144,000 円が保証金額となる。広さだけで保証金額を決めるシンプルな方式だ。
 設備は全棟オール電化。暖冷房設備は、同社が指定する高性能エアコンのみ。電気カーペットやコタツ、電気毛布など個別の間欠暖房器具は認めない。
 断熱・気密仕様は外壁100mm外断熱に樹脂トリプルサッシなど、北海道の北方型ECO レベル以上の家しか建てない。このやり方で4年間、約30 軒で光熱費保証を行ったが、光熱費が保証金額を超えたことは1件もなかった。
 保証制度は、「電気料金を気にすることなく快適に生活してもらうことを目的にしている」がポイントだ。
 北海道では、24 時間全室暖房という考え方が定着しているが、栃木では高断熱・高気密住宅に取り組む会社が少数派なので、快適に暮らして光熱費が安く済むことを実感した人が少ない。だから、冬は暖房をこまめに消したり設定温度を低くする人がいる。安く快適に暮らせることが実感できれば、島野工務店の住宅はお客さまにもっと高く評価され、紹介受注も増えるはずだ。
 同社は年間十数棟規模の地域工務店。小山市は人口16 万人で県下第2位の都市だ。工業団地には大企業が多く進出しており、従業員などの住宅需要が旺盛だ。同社は技術の高さを売りにしてきたが、競合すると値引きした。数十万円以上になることもしばしばだった。今回の光熱費保証制度導入で、この値引きをきっぱり止めた。
 「当社はきめ細かく計算した分厚い見積書を作っていましたが、値引きしてしまうと、『この見積は何だったの?』と思うこともありました」と島野社長。値引きしない代わりに光熱費保証する。保証できるのは、30 件のデータが実証しているからだ。この仕組みで同社の家づくりが宣伝文句だけでないという信頼に変わる。

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島野工務店の新しい社屋

 
アフター訪問を兼ねて光熱費を手渡す
 光熱費保証は、住宅価格の値引きとは意味が全然違うという。「値引きしても、お客さまが感謝するのは契約時だけ。しかし、光熱費保証では、アフター訪問でお客さまの小さなクレームにもこまめに対応し、1年後に社長自らが電気料金の領収書と引き替えに光
熱費を手渡すことで、細かな不満は帳消しになり、当社に対する印象が格段に良くなる」と社長は言う。
 その結果、目先の価格ではなく、「ほんとにいい家がほしい」という客が集まるようになった。平均坪単価も10 万円ほど上昇した。
 こうした成果を受けて、同社は次のステップに進もうとしている。社屋を新築移転し、社屋をショールームとして活用できるようにした。また、この地域の次世代省エネ基準= Q 値2.7W レベルで2,000 万円の予算しかなかったお客さまが、太陽光発電を加えた同社のゼロエネ仕様で3000 万円の住宅を建てられる仕組みを考えた。光熱費保証も、高性能な坪200 円タイプをラインナップし、性能を選べるようにする。
 光熱費保証は、北海道の住宅会社も採り入れ始めている。関心を持ったのは、住宅会社だけではなかった。光熱費を保証してもらうことによって居住者の省エネ行動がどう変わるのか、研究者も注目し、計測が始まった。


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