新聞記事

2012年08月05日号から

特集 工務店支援サービス ―上手く活用して効率を上げる

 複雑化する確認申請、補助金がらみの書類作成など、増え続ける住宅会社の事務的負担を軽減するため、建材メーカーや販売店が工務店向けに業務代行サービスを始めている。こうした代行サービスを利用することで工務店は本来の業務である「家を造ること」「お客さまとの関係を築くこと」に専念できる。その背景とサービスの概要、注意点などについてまとめてみた。


住宅会社の負担は増えている
法規制の強化と誘導的政策

 ここ10余年、日本の住宅行政は、建築基準法の改正や、新たな法体制の整備などで「○○を守るべし」という規制の強化と、「○○制度を利用しましょう」と政府が示す方向性に従う必要性が増し、住宅会社はその対応に追われている。
 たとえば告示1460号による建築金物の事実上の義務化、型式適合認定の開始、シックハウス対応で内装制限の導入と機械換気設備の義務化、住宅瑕疵保険の義務化、長期優良住宅の認定や性能評価制度の開始、CASBEEなど、多岐にわたる。
 その結果、設計時にさまざまな制約が加わることになり、確認申請提出前にもチェックする事柄が増えた。これらは全て事務手間の増加という形で住宅会社の業務を圧迫する。
 さらに、景気対策と住宅の方向性を誘導するための補助金制度が多く生まれては改変され、これらを利用するための対応も大変だ。
 事務手間が増えれば、コスト増となる。そのうえ、新法や新制度をいち早く理解して対応するのは簡単なことではない。かといって、今後は新築需要が減少すると予想される中で、人手を増やして対応するのはリスクがある。
 限られた時間で業務を行う中で、優先すべきはお客さまとかかわる時間や施工の質を確保することだ。営業、打ち合わせやそれを元にしたプラン設計、あるいは施工中の現場回りなど。こうした業務時間は極力減らすべきでない。それに比べて、書類申請への対応など、間接的な業務は減らせるものなら減らしたい。これらはお客さまの満足度には直接影響しないし、見えないところに時間をかけても評価されにくい。

いろんなサービスがある
構造計算から各種申請代行など

 そこで考えられるのが、業務の一部を外部委託すること=アウトソーシングだ。たとえば構造計算。これまで木造住宅では必須とはされていなかったが、長期優良住宅の認定には、耐震等級2以上が必要となり、合理的に対応する方法として、構造計算する方法が多く採られている。計算だけなら建築CADソフトでも対応可能だが、計算の根拠を求められた時、行政担当者に納得させる説明するのは難しい。こうしたやり慣れていない業務は外部に委託した方が確実でスピードも上がる。
 また、長期優良住宅の認定申請や補助金の申請などは、膨大な書類が必要だ。確認申請も書類の量が増えた。これらの書類を不備なく取り揃え、申請後も行政側の担当者とのやりとりまで代わってくれたら非常に助かる。
 金物の適切な配置も、プレカット工場とデータのやりとりが直接できれば便利。使用している建築CADがプレカットCADと連携できれば、金物伏図などを作るサービスをスムーズに利用できるので、間違いない施工につながる。

業務代行以外に相談サービスも
 代行サービス以外に相談サービスもある。「長期優良住宅に対応するためにどこを修正したらいいか?」「営業が作ってきたプランを大幅な直しなしで補助金要件に対応させることは可能か?」などの相談に対し、専門的な見地からアドバイスをもらえば、あとは自社で解決できる場合もある。
 最近は法務相談サービスも登場した。耐震偽装やシックハウス問題など、欠陥住宅問題がマスコミ等で取り上げられることで消費者の目も厳しくなり、訴訟を受けるリスクも増えた。中には「どうしてこんなことで?消費者の事実誤認じゃないの?」という理由でトラブルになることもある。
 このとき、間違ってはならないのが初期対応。対応のまずさで訴訟に発展しないとも限らない。そこでこのトラブルを弁護士が第3者的な視点で冷静に分析し、初期対応の適切なアドバイスをする法務相談サービスも始まっている。

サービス利用の注意点
 こうしたサービスは年々増えてきており、これからはそのサービス内容の差や、サービス範囲の差などをじっくり吟味する必要が出てきそうだ。また、設計サービスや金物拾いサービスは、最終的な責任は依頼者である住宅会社が負うことになる契約がほとんど。あくまでも「困っている部分を手助けする」補助的サービスであることに注意したい。

 こうしたアウトソーシングを提供する会社は、ねらいを持ってやっている。住宅市場が縮小していく中で、提供する側も生き残りのため必死だ。それでユーザーである住宅会社を囲い込みしようとしているのだ。厳しい価格競争にさらされている中で、こうした付加サービスを提供することで「同じ価格なら」と選んでもらい、ユーザーである住宅会社との関係を強化する。生き残りのために必死になっている住宅会社であれば、きっとこうしたサービスを利用するであろう、という読みだ。そういう意味では、生き残りたい会社同士が手を結ぼうとしているのかもしれない。
 次ページからは、サービス提供会社の具体的なサービス内容などを取り上げた。検討する際の参考になれば幸いだ。

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タナカ
初年度は会費無料に
TC住宅サポートの会

 (株)タナカが、同社の金物ユーザーを対象に運営している「TC住宅サポートの会」では、「4号建築物金物積算・作図支援」「耐震CADサービス」「瑕疵保険サポート」「法務相談」など合計8つのサービスを提供している。
 力を入れているのは、4号建築物の金物積算、作図支援サービス。金物積算に必要なN値計算書、金物配置図、壁量・偏心率計算書(希望者)、金物集計表・発注書などを会員価格で利用できる。
 また、耐震CADサービスは主に増改築需要に対応したもので、現地調査結果と図面を提出すれば現状の耐震診断書を作成するほか、補強計画案を作成し、それにもとづいた金物平面図や耐震診断書を作成し、金物積算まで会員価格で行う。
 瑕疵保険サポートは、同社や(株)住宅あんしん保証が定める「設計施工基準」に適合すると、住宅あんしん保証から「品質の高い」住宅と認定され、割安な「認定品質住宅」料金で同社の瑕疵保険を利用できるというもの。
 法務相談サービスは、住宅紛争や近隣住宅とのトラブル時に必要な初期対応として、法律問題や関連法規の法務相談を提供している。
 なお、同社では東日本大震災の復興支援プロジェクトを実施中。期間中は、同会への入会・年会費を東北、北関東、信越などの被災地は2年目まで無料に、それ以外のエリアも初年度無料にする。


北工房
工務店の信頼性アップ
構造計算と設計相談サービス

 建築設計事務所の(株)北工房では、ハウスメーカーへのコンサルティング経験などを生かし、工務店支援サービスとして構造計算や設計相談を行っている。
 以前の耐震偽装事件、最近は東日本大震災の影響があり、消費者は自分が建てる住宅が丈夫で安心できる建物かどうか気にしている。政府もこれに対して建築基準法の強化や長期優良住宅の認定、性能表示制度などを推進して応えようとしている。
 北工房では、「工務店が大手メーカーとの競争に生き残るには、4号建築物では免除されている構造計算をあえて1棟1棟行い、確かな根拠に基づく構造の安全性や安心を消費者に提供することが必要」と工務店向けの構造計算サービスを始めた。もちろん、混構造、3階建て、RC造、S造の建物など、構造計算が義務づけられている建物への対応も万全だ。
 既に同社のサービスを利用して全棟構造計算を行っている工務店もあり、その会社は構造計算サービスで信頼をアピールしながら、ライフスタイル提案ができる社内の人材育成に力を入れたことで受注棟数を伸ばしているという。
 このほか、初期のプレゼン資料づくりから法規チェック、意匠設計、構造計算、Q値計算、CASBEE(戸建)評価、各種申請書類作成など、住宅設計にかかわる一連の業務、住宅履歴情報サービスの取次ぎ、リノベーションに不可欠なインスペクション業務も行っている。


FPコーポレーション
工務店を幅広く支援
道内の非会員にもサービス提供

 (株)FPコーポレーションは、「FPの家」の工法・部材提供を行っている。FP工法は、屋根、壁、床それぞれ専用のウレタン断熱パネルを使用して高断熱・高気密住宅を実現。同社によると、相当隙間面積C値は実測平均で0.5cm2/m2以下だという。
 FPグループへ入会し、年会費10万円と活動分担金を実費分担すれば、FP工法を利用できる。ロイヤリティ等の費用は発生しない。
 同グループ会員は、設計事務所との提携で長期優良住宅対応の「トータル・サービス」を受けることができる。申請に関わる関連図書作成や申請代行業務といった「設計サポート」、瑕疵保険の取次を行う「保険サポート」、消費者に安心を提供する完成保証などの「保証サポート」、住宅履歴の管理を行う「履歴管理サポート」の4つのサポートで構成されている。目的はズバリ「工務店が苦手とする業務のお手伝い」だ。
 住宅履歴の管理は、「うちログ」という名称で同サービスのみの利用もアピールしている。
 うちログは、住宅履歴情報を元にした維持管理作業やリフォーム工事の提案を行えるほか、住宅事業者と住宅所有者の間で行うメールのやりとりを保管する機能、建材・設備のリコール情報をFPコーポレーションから発信する機能などを備え、工務店のアフターサービスの充実に役立つ。
 このほか、上記の機能に加え、専用HEMSと連動した「うちログeco+」も提供している。


物林
グループの強み活かす
プランから道産材の一括手配も

 物林(株)は一級建築士事務所も併設しており、500m2以上の物件も含め相談や設計業務の代行を行っている。
 たとえば、プラン段階での相談、長期優良住宅申請書類の作成から、構造材から造作材など道産材の一括手配も可能だ。また、構造強度に応じた樹種の選定など木材商社ならではの強みもある。
 同社はグループとして金物プレカットも行う北海道プレカットセンター(株)や、大断面集成材も製造する協同組合オホーツクウッドピアなど、さまざまな木材製品の製造工場を持っている。物林はJKグループの一員として、ジャパン建材(株)と連携したサービスも行っている。
 このほか、福井コンピュータアーキテクト(株)の建築CAD「アーキトレンドZ」のデータをプレカット工場でそのまま生かせるデータ形式・CEDXMA(シーデクセマ)に対応している。


福井コンピュータ
今秋・道内でスタート予定
アーキトレンドCADセンター

 福井コンピュータアーキテクト(株)は、同社の建築CAD「アーキトレンドZ」ユーザーの住宅会社に対し、パートナー企業と連携して申請業務サポートサービス「アーキトレンドCADセンター」を開設しており、今秋から北海道でも業務開始する予定だ。
 同センターは、アーキトレンドZに精通している設計事務所などのパートナー企業が、確認申請代行、長期優良住宅の認定申請や設計性能表示への対応などを行う。
 現在、道央圏数社の設計事務所が共同で1つのCADセンターとして申請登録することを準備している。


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