新聞記事

2011年12月15日号から

インタビュー 2012再生 第3回

代表 小西彦仁さん

トータルの設計力を磨く

20111215_01_01.jpg 2009年に「愛国農場の家」で「バーバラ・カポチン国際建築ビエンナーレ賞」(イタリア)の最高位である国際建築賞に輝き、北海道を代表する建築家として活動している札幌市の小西彦仁さん。
 そんな小西さんにこれまでの仕事ぶりと来年2012年をどう占うか聞いてみた。
 当社は1997年暮れ、独立間もない小西さんが設計した「中庭の家」を取材した。南面も北面も採光するためにパティオ(中庭)を導入するという斬新なプランが印象的だった。

空間と建物で魅せる
いごこちのいい美容室に

20111215_01_02.jpg―これまで美容室の設計が多いようですが、リピート受注できる秘訣があるのでしょうか?
小西 実は同じ経営者のお店を設計しています。最初に設計したのが2号店にあたる店舗で、その後新規で出店や建て替えがあるたびに私に指名が来ました。美容室も私もともに仕事が増え、成長したのだと思います。
 私の基本的な考えは、「店舗も住空間の快適さが必要」です。斬新なデザインや凝ったインテリアを採用しても、冬寒かったり、暖房費がかさむような建物設計では意味がありません。また、建物や空間自体が魅力的でなければならないと考えています。
 美容室は女性客が多く、滞在時間が3~4時間と長いことも特徴です。ですから、店内で快適に過ごせるかどうかはお店の客入りにも影響してくると思います。
 美容室のお客さまから住宅の設計依頼が来るケースもあります。2009年にイタリアで国際建築賞をいただいた「愛国農場の家」も、施主の奥さまがその美容室の顧客で、美容室の建物に興味を持っていただいたのがきっかけでした。おかげさまで、十勝では宣伝をしていないにもかかわらず、毎年お仕事をいただいています。

新しい農村景観を
別棟とは見せないデザイン

20111215_01_03.jpg―農家の住宅も手がけられていますが、どんなことを提案するのですか?
小西 これまでは、農家の方が家を建てようと考えると、マチの住宅展示場まで行き、参考にしていました。
 そして建てられる家も1階はリビング中心の間取り、2階は広い個室というプランが多かったようです。しかし、ムダなスペースも多く、農家の生活実態、農村文化とは離れたプランニングです。
 農家の方からお話をうかがうと、30代あたりを境に考え方に大きな差があることがわかりました。30代以下は、プライバシーを重視しますし、それ以上の方は大家族制に慣れているのでいっしょに暮らしたいと思う。こうした違いを受け入れた新しい農家住宅を提案したいと思いました。
 農家にとって、家の窓から見える畑や田んぼは風景や景色ではなく『仕事場』です。若い奥さま世代からすると、早朝から夜まで大家族が顔を合わせて働き、休みの日もなかなかない。そんな中で家にいるときは自分の時間がほしい、仕事場である外の畑などを眺めたくないという方もいます。また、農家が代々続いていくには、子どもが「跡を継ぎたい」と積極的に思える環境が必要です。そのため、子世代のプライバシーが保ち快適に過ごせるという要望を取り入れながら、2世帯が一つ屋根の下に暮らすという暮らしのかたちも重要視したプランにしました。
 「愛国農場の家」では、外観上は5つのモジュールに分かれ、外からはどこが親世帯、子世帯が住んでいるかわざとわかりにくい形にしました。内部では、明確に子世帯と親世帯を分けてプライバシーに配慮しました。
 こうした新しい試みは、お施主様の理解がないと実現しませんが、快く取り入れていただき、形になったことで、農家住宅の新しい提案が残せたと思います。

2012を「読む」
二極化が進行

―2012年以降、住宅市場はどうなると思いますか?
小西 二極化の傾向が進むと思います。ユニクロ的な、規格化された高品質で低価格な住宅を求める方、そしてオーダーメイドのオンリーワンの家を求める方です。
 設計事務所はもちろん後者でしょう。私はお客さまの要望通りではなく、要望以上のプランを提示してお客さまに喜ばれたいと思っています。
 また、東日本大震災が契機となり、住宅の環境性能も重要になると思います。ヒートポンプ機器などを取り入れればそれでOKではなく、断熱性能の向上なども考える必要があります。さらに、建築家として住空間も含めトータルで快適な家を提案したいと思います。
 一方で景気に懸念材料があります。それは消費税の増税です。住宅で3%や5%の増税というのは金額に換算するとたいへんな事です。
 私が独立したのは1996年ですが、翌97年に消費税が5%に上がり、その後一時的に仕事がパタッと止まった記憶が今も甦ります。当時は独立したばかりでほんとうに焦りました。
 駈け込み需要もその後の需要激減も、対応するのがやっかいな問題です。できれば、住宅は増税の対象から外してほしいし、税率が一律になるのがやむを得ないなら、建築する住宅の条件によって補助金を出したり減税するなどの措置がないと、住宅業界は今後大きく景気が冷え込むのではないかと心配です。

【写真】
小西彦仁さん

イタリアの建築賞を受賞した「愛国農場の家」

O house.jpg O house(2010)
ALAMODE CHERIR.jpg ALAMODE CHERIR(2011)


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