新聞記事

2011年11月25日号から

第2回北方型住宅賞 最優秀賞は中札内の家

Sa design設計、大野建設施工

 北海道建築指導センターと道が主催した「第2回北方型住宅賞」の表彰式が、去る14日に札幌市内のホテルで行われ、最優秀賞を受賞した十勝・中札内村のS・H邸オーナーと設計のSa design office一級建築士事務所・小倉寛征代表(札幌市)、施工の大野建設・大野圭市社長(幕別町)を始め、各賞を受賞した住宅のオーナー・設計者・施工者に賞状と副賞が贈られた。
 この表彰は、北方型住宅のよりいっそうの周知と建設促進を目的に実施。今回は平成18年度に続く第2回目となり、7月から〝気候・風土を活かし、地域によって育まれ、豊かな住まいづくりを実現している北方型住宅〟を募集。道内38市町村から112軒の応募があり、最優秀賞1軒、優秀賞3軒、奨励賞6軒が選出された。
 このうち最優秀賞に選ばれた中札内村のS・H邸は、昨年度建てられた北方型住宅ECO。延床面積約30坪の平屋で、東西に延びる23mの廊下によって各部屋同士のつながり感を持たせた細長い形状・プランが特徴となっている。
 設計を行ったSa design office一級建築士事務所の小倉代表は「中札内の自然のいいところも厳しいところも感じられ、田園風景になじむ水平基調の外観にするとともに、子供の成長や変化に対して家族みんなが話し合いながら造り変えていける住まいを目指した。最優秀賞は嬉しい」と話しており、施工を担当した大野建設の大野社長は「最優秀賞受賞は光栄。冬に完成現場見学会を行った時、快適な室内から吹雪の戸外が非現実的な世界に見えて感動したことがあるが、それだけ当社にとっても印象に残る住まい」と語っている。
 このほか各賞を受賞した住宅は次の通り。
 ▼優秀賞=札幌市S・N邸(メグロ・アーキ・スタジオ設計、拓友建設施工)、室蘭市K・M邸(一級建築士事務所エネクスレイン設計、小松建設施工)、伊達市O・M邸(M&M ASSOCIATESおよび須藤建設SUDO設計の共同設計、須藤建設SUDOホーム施工)▼奨励賞=厚岸町H・R邸(一級建築士事務所ATELIER O2設計、サトケン施工)、札幌市N・T邸(アトリエアーキファースト㈱設計、江田建設施工)、七飯町D・K邸(奈良建築環境設計室設計、山野内建設施工)、長沼町S・K邸(トロッコ一級建築士事務所設計、大平洋建業施工)、旭川市T・K邸(柳雅人建築設計工房設計、橋本川島コーポレーション施工)、札幌市O・Y邸(アーキシップ・アソシエイツ設計、ハウジング光陽施工)

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北方型最優秀賞...最優秀賞を受賞した中札内村のS・H邸


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受賞者一覧


2011年11月25日号から

3次補正予算成立

エコポイント再開へ  フラット35S金利優遇も
 今年度の第3次補正予算案が今月21日に成立する見込みとなった(11月19日現在)。これにより住宅エコポイントやフラット35Sの金利引下げ幅拡大が再開になるとともに、太陽光発電などのエコ設備機器導入に補助を行う節電エコ補助金もスタートになる予定だ。
 住宅エコポイントは今年7月末の着工・工事着手をもって終了していたが、東日本大震災被災地の復興支援に重点を置いた制度として再開。新築は今年10月21日着工分から、リフォームは今月21日分から対象となり、新築は15万ポイント(被災地は30万ポイント)がもらえ、太陽熱利用システムを設置するとさらに2万ポイント加算。リフォームは最大で30万ポイントで、耐震改修も行う場合は最大で45万ポイントがもらえる。
 フラット35Sの金利引下げ幅拡大は今年9月末申込分をもって終了していたが、省エネ性に優れた住宅を「フラット35Sエコ」と称し、当初5年間の金利を0・7%(被災地は1・0%)引き下げる(4面参照)。
 このほか家庭用の太陽光発電や燃料電池、蓄電池、HEMS(ヘムス)の導入に補助を行う節電エコ補助金も創設。このうち太陽光発電と燃料電池は、すでに今年度実施されている補助制度を継承する形となる。
 いずれも詳細は次号(12月5日付)に掲載予定。


2011年11月25日号から

強風地域での換気 1

高性能住宅Q&A 756

C値0.5以下と風密性

Q...節電や生活スタイルの見直しなどの影響で、われわれ住宅業界もいっそうの省エネ住宅を提案する必要があると思い、来春からスタートする予定です。ただ、この地域は風が強いため、換気についてはいつも悩みます。どうしたらいいでしょうか(道南・工務店)
A...まず、強風地域で大切なことを整理してみたいと思います。その次に換気について見ていきましょう。
 風が強い地域は、言うまでもなく断熱性能が低下しやすくなります。
 気密性能を高めC値を小さくするとともに、透湿・防水シートなどによって風密性能とでも言うべき風に対する気密性を高める必要があります。
 風速と空気漏れの関係を調べた資料があります。
 漏気によって実際にどれだけ熱が持ち去られるかを把握することは難しいのですが、気密レベルに応じて風が吹いた時にどれくらいの漏気量が発生するのかを計算することはできます。この資料と知見は、(有)北欧住宅研究所・川本清司氏によるものです。
 それによると、風や温度差による漏気を一定量以下に抑えるために求められる気密性能(相当隙間面積=C値)は、強風地域では0・5cm2/m2以下になりそうです。

※続きは試読をお申し込みください。
(伝言欄に「11月25日号から希望」とお書き添えください)
https://www.iesu.co.jp/publication/newspaper/


2011年11月25日号から

読者のつぶやき

◆今になって猛烈に忙しい
札幌市 工務店 社長
 震災後は資材調達のメドもつかず、「今年は営繕やリフォーム中心でなんとかやり過ごすか」と思っていましたが、夏頃から資材流通も回復して新築受注が次々舞いこむようになりました。ホームページ経由で問い合わせてきたお客さまも多く、気がつくと今年もそこそこの結果を残せそうなのでホッとしています。性能重視のお客様も多く、やりがいもあります。その代わり、今はとても忙しいです。来年3月引き渡しの物件もあり、慌ただしい年末を迎えそうです。

◆職人が足りない
札幌市 工務店 社長
 今年は昨年に比べると新築受注は減りました。それでも営繕やリフォーム受注がけっこうあったのでなんとか年末を迎えられそうです。困っているのは、職人の手当て。屋根工事、外壁工事などは特に人出不足で工事の日程を組むのも大変です。ものすごく好景気というわけでもないですし、東北にみなさん行ったわけでもないと思うので廃業された方が多いのではないかと思います。この分でいくと大工も足りなくなるのではないかと心配です。


2011年11月15日号から

「乾燥感」と加湿対策

高性能住宅Q&A 755

夜間対策と正確な湿度計

20111115_01_03.jpg Q...乾燥でノドが痛くなるので加湿器を使ったら、床が濡れてしまいました。タオルを濡らして干したら、ニオイがついていやな感じ。何かいい方法がないかと悩んでいます(札幌・ホームオーナー)。
A...高額な加湿器やパネルヒーターに引っかけて使うパッシブ加湿器など、思いつく方法はいくつかあります。体験も含めて少し紹介してみましょう。


高額な加湿器の使用感

20111115_01_02.jpg 完全に気化してから放出するので、床が濡れるということもないし、空気が臭いということもない。ただ、強運転だとあっという間にタンクの水がなくなってしまう一方、弱運転だとイマイチ加湿効果が弱い(ボネコ気化式加湿機)。


パッシブ加湿器の使用感

20111115_01_01.jpg給水は一日1回で、すべての放熱器(パネルヒーター)に1台ずつかけている。洗濯物を室内に干しても、昼間に乾燥してしまうためか、気になる夜間の乾燥感改善につながらない。
 パッシブ加湿器(アメニア)は、湿度計のパーセンテージには反映しないけど、寝ている間にノドが渇いて目がさめるということがなくなった。
   *   *
 取材の中でわかったことがあります。冬場の室内乾燥の問題は、乱暴ですが突きつめれば①夜間時間帯②湿度計の%改善③湿度計の数値を見ただけで不安(20%台)―に集約できるようです。
 ①については、とても重要な情報です。あかちゃんやアレルギーのひどい人がいれば別ですが、小学生以上になれば問題は夜だけに限定することもできます。そうすれば加湿器の使用タイミングや、場合によっては洗濯ものなど、対策がいくつか考えられます。
 ②湿度計の「%」を20%から25%に"改善"することが相当難しいことはご存じの通り。そこで、新築時にできるだけ正確な温湿度計を贈ってみてはいかがでしょうか。そして、1~2年後に新しい温湿度計を再度プレゼンとしてもいいのでしょう(計器の更新です)。
 精度の高さを追求したらきりがないのですが、いま最も精度が高い市販品とされているのがこれです。
「エンペックスSuperEX高品質温・湿度計」。価格は1コ2千円~3千円台。
 同じ温湿度計を各社が事務所に設置しておけば、客先と温度・湿度を比べることもできます(厳密にはムリですが)。
 ③「湿度20%という表示を見ただけで不安になる」と答えた主婦のように、数字が一人歩きするきらいがあります。だから、正しい湿度計が大切ですし、ユーザー教育が大切でもあると、再認識しました。


ボネコ通販HP
http://www.cataloghouse.co.jp/living/dehumidification/1101246.html

アメニアHP通販
http://www.njkk.co.jp/shop/amenia/index.html

エンペックスHP
http://www.empex.co.jp/


2011年11月15日号から

円山動物園に学ぶ快適で省エネな環境設計 後編

札幌市立大学デザイン学部 斉藤雅也准教授

冷房しないほうが快適!?

20111115_02_01.jpg 私たち人間にとっても、暑い日の路面からの強烈な照り返しは非常に不快。立っているだけで頭がクラクラします。
 これは、かつてのオランウータン「弟路郎」の住まいと同じ温熱環境になっているのです。壁や天井、照明などから放射される熱のせいで設定通りの冷房効果が得られません。
 温放射の影響を適度に抑えるには、建物の断熱・気密性能を高めることが基本。その上で、日差しを建物の外で遮り、室内を加熱させないことが重要です。さらに通風を図るのが夏場対策の基本です。これだけで湿度の低い北海道の夏は十分爽やか。
 日射遮へいをした風通しの良い部屋の方が、冷房した部屋より快適という実験結果もあります。そして、冷房しない部屋は冷房空間より室温が高くても、ずっと快適に感じるという驚くべき結果が出ています。
 エアコンの効いた空間は居心地が良さそうですが、快適に涼しい場所は意外に少なく、冷房の周りは寒く、離れると暑いという経験があると思います。断熱と日射遮へいが不十分なまま冷房に頼ったためなのです。

冷房に頼りすぎてはいけない

20111115_02_02.jpg 類人猿館は当初、屋外放飼場全体をある程度、均一な温度にする案があったそうです。
 最終的には「暑いところと涼しいところを造って選択できるようにした方がいい」という飼育員さんのアドバイスを重視。植栽でところどころに日陰を作る現在のプランを採用しました。「弟路郎」の動線も日向と日影を交互に移動しながらのびのびと暮らしていることがわかりました。
 適度な温度ムラがある環境のなかで、自分でそのときいいに場所を選んで暮らすのは、動物だけでなく、人間にとっても悪いことではありません。エアコンの効いた部屋に朝から晩まで閉じこもると、むしろ問題です。
 ふだん冷房した部屋で過ごす人は冷房をあまり使わない人と比べて総じて低体温。発汗・放熱によって体温をコントロールする機能が正常に働かなくなり、汗をかけない体になるのです。
 冬も夏同様、まず建物を高断熱・高気密にして外壁や窓面の冷たい放射を防ぐことが大前提。暖房はパネル式セントラルなど低温の放射熱でマイルドに暖めるタイプを選びます。「周壁温度は高く、室温は周壁温度と同じくらいかやや低めに」が上手な暮らし方。高断熱・高気密住宅は室内が18℃くらいでも快適に過ごせます。

創エネ、節約以外の第3の選択

20111115_02_03.jpg 原発の是非や自然エネルギーへの転換をめぐって各方面で議論が交わされていますが、ほとんどがサプライサイド(エネルギー供給側)の話。「今ある電力をいかに適切に使うか」というディマンドサイド(需要側)の問題については『節約』以外の対策が打ち出されていません。
 家庭で電気を節約することは確かに大事。でも「我慢」だけで暑さ寒さを克服するのは体に負担がかかります。
 電力を必要とするアクティブな技術(暖房・冷房)と、必要としないパッシブな技術(断熱や日射遮へい)を上手に組み合わせれば、快適さや健康を犠牲にしないで省電力が実践できるはずです。
 人気のグリーンカーテンに家族みんなでチャレンジするのも楽しそう。

最後に
「エクセルギー」の概念

20111115_02_04.jpg 「省エネ」とか「暖房エネルギー消費」という言い方をしますが、エネルギー自体は消えてなくなるわけではありません(エネルギー保存の法則)。増えもせず減りもせず、太陽からのエネルギーは、地球に入り、最終的には地球を出て宇宙空間に放出されています。そこで熱力学の世界では、エネルギーのもっている資源性を「エクセルギー」と呼びます。
 化石エクセルギー消費を少なく(省エネ)するにはシステムの効率を高めると同時に、冬であれば、建物の内部から屋外に熱が伝わりにくく、逃げにくい構造にしなくてはなりません。そのための技術が「高断熱・高気密」です。夏は「高断熱」に「日射遮蔽」が加わり、通風できることが鍵になります。また、「エクセルギー」概念によって、住まいの断熱・蓄熱・日射遮蔽がサプライサイド(供給側)の規模をかなり小さくできることもわかります。
 今回は「エクセルギー」の概念について詳しい説明ができませんでしたが、それについてはまた改めてまとめてみたいと思います。

※9月3日に小樽市で開かれたNPOパッシブシステム研究会の市民セミナーでの講演記録に基づいて、講演者である斉藤先生が加筆・修正した。


写真
札幌ファクトリーの施設を中心に曇りの日に撮影。曇っていても壁面や道路の過熱がよくわかる。一方、壁面緑化された部位は温度が低い。寒冷地の都市のデザインでも、緑化は大きな意味がある

出典:宿谷昌則編著、エクセルギーと環境の理論-流れ・循環のデザインとは何か-改訂版、2.3体温調節システム(76-84ページ)より抜粋(井上書院、3400円+税)


2011年11月15日号から

読者のつぶやき

◆建材店の存在感とは?
十勝 建材店 部長
 新築住宅では、スマートハウスが流行りで、そこに家電量販店が食い込むなど、今までと違う流れができています。工務店に対しても今後電材ルートからの営業が進むかもしれません。一方、住宅リフォームは水まわりが中心なのは変わりません。この分野ではやはり管材ルートが強いと感じています。そうすると、我々建材ルートにいる人間は何をなすべきか、考えるところです。今後の生き残りのためには、今のままではダメだと感じています。

◆木枯らしが吹き始めている
札幌市 建材メーカー 課長
 住宅新聞を読んでいると、数字の上では道内の住宅市場は二ケタ増なのですが、どうも数字とお客さまからの引き合いが一致しません。7月ぐらいまでは確かに悪くない感じでした。しかし、お盆明け頃から「あれっ?」という感じで反応が鈍くなり、10月は出荷数がかなり落ちました。既に景気上は木枯らしが吹き始めている感じで、今後の住宅動向には注意が必要かな、と思います。来年は住宅政策も少し変わりますし、作戦を練り直す必要が出てきたようです。


2011年11月05日号から

200mm厚以上の時代へ

超高断熱の納まり

 札幌版次世代省エネ基準の策定や東日本大震災によるエネルギー不足などを背景に、外壁200mm以上の超高断熱に取り組む住宅会社が増えてきた。また、道内の研究者からは「これからは最低200mm断熱が必要」との声も聞く。今後の省エネや節電、CO2排出量削減などを考えても、超高断熱化はこれからの住宅の方向性の一つ。ここで200mm以上の超高断熱壁体の納まりをチェックしてみたい。

在来 充てん+外付加100mm充てん+外付加100mm
内側付加で配線空間確保も

thum20111105_1.jpg在来木造住宅では、すでに5年以上前から200mm断熱に取り組む住宅会社があり、現在見られる在来の超高断熱化もその納まりをベースとしたものが中心だ。
 ここでスタンダードな200mm断熱の納まりをおさらいすると、軸組屋外側に構造用合板を張り、その上から455mmピッチで断熱下地となる105×30mmの間柱材や204材を縦使いまたは横使いで施工。その下地の間に付加断熱材を充てんし、透湿防水シートを張ってから外装仕上げを行う方法が一般的。
20111105_01_02.jpg 早くから200mm断熱に取り組んでいる新濱建設(旭川市、新濱壽男社長)では、この納まりでさらにロックウールボード25mmを付加して225mm断熱とし、PVCサイディングを通気層なしで直張りする納まりを採用している。
 なお、NPO新住協代表理事で室蘭工業大学教授の鎌田紀彦氏は200mm断熱の室内側に防湿気密層の上から45mmの付加断熱を行い250mm断熱とする納まりも提案。内側付加断熱層のスペースを利用することで、気密層を壊さず配線・配管が施工できるメリットがあるとしている。
 ただ、この場合も含めて断熱材を内付加する場合は、通常の設計より付加断熱材の分だけ外壁を屋外側にオフセットするなど、室内空間が狭くならないよう設計を工夫することが必要になってくる。

※続きは試読をお申し込みください。
(伝言欄に「11月5日号から希望」とお書き添えください)
https://www.iesu.co.jp/publication/newspaper/


2011年11月05日号から

円山動物園に学ぶ 快適で省エネな環境設計 前編

札幌市立大学デザイン学部 斉藤雅也准教授

ガマンと節電の夏

20111105_02_01.jpg 福島第1原子力発電所の事故による電力不足が心配された今年の夏。
 節電一色の空気の中、本州ではエアコンの使用を控え、気合いで暑さを乗り切った方も多いと聞きます。そして、いよいよもう1つの電力需要ピークである冬を迎えます。
 電力不足や計画停電によって太陽光発電や蓄電池に注目が集まっており、一方、節電方法としてはガマンや節約が話題の中心ですが、基本となるのは住宅性能のはず。
 建物の断熱・気密性能がしっかりしていて、日射遮蔽や通風などパッシブな技術を取り入れれば、夏も冬も快適に乗り切ることができるのです。そのことを円山動物園の動物たちが教えてくれました。

動物園の動物たちが教えてくれる

 札幌市立大学は円山動物園と2006年から動物舎デザインを中心にさまざまなプロジェクトを協働で実施しています。その中で斉藤准教授は、自身の専門である建築環境学に基づいて、動物舎の温熱環境のデザイン監修をされました。
 生息地の気候(光・温熱・空気環境など)を忠実に再現した展示が話題の円山動物園「は虫類・両生類館」。約60種類ものワニやヘビ・トカゲの仲間たちが生き生きと暮らしています。
 紫外線を放射するランプのそばで気持ち良さそうに甲羅干しをしたり、水に潜ったり。孵化や冬眠をガラス越しに間近で見ることも出来ます。
 太陽光による自然暖房や昼光照明、円山地域の季節風を利用した高窓換気など電力消費を抑えたパッシブな建築手法も積極的に採用しています。
 動物園という小世界で、いわば逃げ場のない動物たちの命を守るには、年間を通じ生育に適した光・温熱・空気環境を維持することがとても重要です。
 建物は外気温の変動に大きく影響されないようコンクリートの外側に断熱材を施工。暖房は強制対流型ではなく、極端な温度ムラや乾燥を招くことが少なく、繁殖にも適した低温放射型のシステムを使用しています。
 高断熱・高気密なシェルターを外断熱工法で造り、穏やかな温放射で室内を温める。これを「温房」と呼んでいます。ヒトが住む住宅と同じ考え方です。

オランウータンが熱くて動かない

20111105_02_02.jpg20111105_02_03.jpg オランウータンの弟路郎(ていじろう)が住む「類人猿館」の屋外放飼場も3年前、大がかりな改修工事を行いました。
 以前は夏になると、奥の日陰でじっとしていることが多かった弟路郎。熱帯雨林の森に棲む動物で暑さには強いオランウータンがなぜ動かないのか。じつは"熱くて"動けなかったのです。北緯43度の札幌でも夏の日射で50℃に達する、コンクリート床からの放射熱が原因でした。動かないから、見学に来た市民も素通りしていました。
 今の住まいはコンクリートの床を土にかえ、強い日差しを防ぐ木陰をつくりました。土と芝生の庭はコンクリートと違い、歩けないほど熱くなることはありません。高い樹木もあります。
 「森の聖人」と呼ばれるオランウータンにとって暮らしやすい光・温熱環境になってからは、樹上を移動する姿が見られるようになりました。
 屋外施設ですので空気温(外気温)は以前とそう変わりません。何が変わったかと言うと、壁面や地面といった周壁の表面温度(放射温度)です。これは私たちの住む世界も同じで、夏季の住まいは、空気温度を低くしなくても、強い温放射の影響を抑えることで、環境の質は格段に向上します。
 以上のことは、熱力学の「エクセルギー」という概念※によって得られた知見です。夏、外気温が30℃を超えるとき、「人体のエクセルギー消費速度(熱的なストレスを表わす)」が最も小さくなるのは、室温26℃の冷房室ではなく、適度な風が通り、壁面温度が28℃ほどの通風環境であることがわかっています。
 愛嬌タップリの生活ぶりを見ようと長時間、足を止める人も増えました。木陰のクールスポットが来場者にも心地いいようです。

※9月3日に小樽市で開かれたNPOパッシブシステム研究会の市民セミナーでの講演記録に基づいて、講演者である斉藤先生が加筆・修正した。

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オランウータンの屋外放飼場、上がビフォー、下がアフター。床表面が60℃に加熱している改修前に比べ、改修後は温度が下がっている
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サイイグアナの展示スペース。高温のランプとその周辺で温度差をつくりだした


2011年11月05日号から

読者のつぶやき

◆録音して聞いてみた
     札幌 工務店 社員
 一度現場見学会に来てくれたお客様と、出会うのはそれっきりということが多く、自分の接遇に問題があるのではないかと心配しています。いろいろな住宅会社を回ってきているお客様が多いので、他社とも常に比較されています。住宅に興味を持ってくれている方がお相手なのですからもっとお客様の話を上手に引き出し、良く理解した上での適切な返しをすれば何とかなると思うのですが、録音して聞いてみるとイマイチでした。自分のトークを聞くと恥ずかしいですね。


◆お客さまの感謝の声でやる気充電
     札幌 工務店 社長
 先日リフォームのお客様に、リフォーム後は、家全体が暖かいし、居間の家族の様子を感じながら、そしてテレビを見ながら、時には外の景色を見ながらキッチンで料理ができるので家事をするのが嫌でなくなったというお手紙をいただきました。家族を支えてきたお母さんの負担を少しでも軽減できたのなら良いリフォームができたと言って良いでしょう。社員みんなで読んでやる気が充電されました。

◆刺激を注入したい!
    札幌 工務店 社長
 いつも職場内で似たような役割で仕事をこなしていると、慣れた仕事をこなすことになったり、いつも出会う人にまた出会うというマンネリが発生します。大きな成長が見込めない上に自分の得意分野しかわからない、偏った潰しのきかない人間になる。自分とは全く違う生き方や仕事で努力している人にどんどん会えば刺激を受けるので自然に成長すると思います。社外の優れた人との接点を社員にもっと持たせようと考え中です。


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