新聞記事

2011年07月05日号から

太陽熱で給気予熱

北総研 福島明さん

 東日本大震災以降、太陽光発電など自然エネルギーの有効利用に関心が高まっている。この中で太陽熱利用は、エネルギー変換効率は太陽光発電よりも上だと言われながら道内ではほとんど普及していない。そこに北方建築総合研究所(北総研)企画調整部長の福島明さんが、新しい提案をしている。20万円のイニシャルコストで年間1000kW以上のエネルギーを取得し、10年程度で投資コストを回収できる提案だ。

ローテク生かす家づくり
20110705_01_01.jpg 福島さんはパッシブ換気システムの研究などで知られるが、その根っこにあるのは「大手住宅会社にはできない地場工務店ならではの家づくり」を考えることだという。
 大手住宅会社は、工場でパネルを生産し、現場であっという間に組み立ててしまう。目指すのは、規格化・商品化された「手離れの良い」家づくりだ。これに工務店が対抗するためには、同じようにハイテク化を目指しても勝てないという。
 「私はあえて『手離れの悪い技術』を考えています。パッシブ換気システムがそうです。手離れが悪いということは、引き渡し後も工務店が顧客と関わり続けるという意味です」と福島さんは言う。たとえば外装材でもあえて木材を使うという選択肢がある。ハイテクではないので壊れにくく、メンテすることで確実かつ長期的な効果を期待できる。
 太陽熱の利用も同様。屋根等に載せて使う給湯器タイプと壁付けして集熱した空気を使う補助暖房タイプがあるが、福島さんが注目しているのは補助暖房タイプだ。

利用法と取付方法で性能を向上
20110705_01_02.jpg もっとも、高断熱・高気密住宅と太陽熱補助暖房の相性はあまり良くないとされてきた。熱が欲しい朝夕は日射が期待できず、日射がある昼などは場合によってはオーバーヒートする可能性があるからだ。
 もう1点の課題は暖房として使うには取得熱の温度が最低でも30℃程度必要になるという点だ。30℃までの温度がとれないと冷風になって使えないので、せっかく取得した太陽熱もムダになってしまう。
 そこで福島さんは別の手を考えた。「基礎断熱した床下空間に太陽熱で作った温風を取り入れれば給気予熱用熱源として使うことができる」というのだ。晴天の日は床下空間が緩衝帯となってオーバーヒートを緩和できる。曇りの日は少しの温度上昇も予熱用のエネルギーとして活用できる。パネル1台なら全体の換気量にはほとんど影響を及ぼさない。
 検証はこれからだが、取付方法の工夫と給気予熱に転用すれば高さ2m×幅70cmの集熱パネルで年間1000kW以上の熱を取得できる可能性があるという。取付費込みで20万円ほどかかるが、10年程度で元が取れる計算だ。
 検証に使う製品は、(株)マツナガ(本社東京都)の「ソーラーウォーマー」。デンマークで開発された太陽熱利用の補助暖房だ。同様の原理を持つ製品は他にもあるが、最大の特徴は温風を室内に導入するファンの動力がパネルに内蔵された太陽電池でまかなわれること。したがって電源を確保する必要がない。

CO2削減量は熱交換並み
 「パッシブ換気と併用すれば、商用電源を全く使わずに高性能な熱交換換気システムと同等のCO2削減効果が得られる」と期待している。熱交換換気システムが札幌で熱回収できる量は年間2000kW程度。これに運転にかかる電気代が1時間あたり平均60Wとして年間500kW程度かかるので、その分を差し引けば年間1500kWとなる。さらにCO2削減効果をトップランナー基準のように一次エネルギー評価で見ると、熱交換換気システムと太陽熱集熱は同等レベルだ。
 ソーラーウォーマーは、さらに給湯に利用できる機種もあり、年間給湯負荷の15%をまかなえる可能性がある。
 この後、今年度中に設置方法や使い方などを検証する予定だ。

ソーラーウォーマーの取付例(マツナガ)


試読・購読のお申し込みはこちら 価値のある3,150円


関連記事

powered by weblio


内容別

月別

新着記事