新聞記事

2011年02月15日号から

谷中の町家プロジェクト

準防地域で木造3階

"準防火地域で柱・梁などを現しにした木造3階建て住宅を建てる"。このかなり難しい家づくりに建て主や設計者、施工業者などが取り組んだ事例がある。一昨年に東京都台東区谷中で建設が行われた「谷中の町家プロジェクト」がそれで、準耐火建築物とするために、断面が大きいとゆっくり燃える木材の性質を利用した"燃えしろ設計"や、耐震性と防火性を兼ねた部材の採用などがポイントとなっている。
 このプロジェクトは平成20年8月から翌21年11月まで行われたもので、設計は桜設計集団一級建築士事務所(東京都、安井昇代表)、施工は(株)吉川の鯰(同、岸本耕社長)が担当。建て主が以前住んでいた狭小地の2階建て木造住宅を建て替えるにあたり、昔ながらの風情が残る地域に似合う木造の3階建てにしたいという要望に応えた。延床面積は約195m2で、このうち倉庫を除く居住部分が約150m2。
 準防火地域の木造3階建ては、建築基準法上、準耐火建築物としなければならず、そのためには柱や梁を石こうボードで覆ったりするケースが目立つ。しかし、それでは軸組木材がまったく見えず、木造ならではの意匠を表現しにくいこともある。
 そこで今回のプロジェクトでは、杉の柱・梁や野地板・床板を室内に現しにできるよう、様々な試みを行った。その一つが"燃えしろ設計"だ。

燃えしろ設計を利用

 燃えしろ設計とは、あらかじめ火災時に燃えると想定される寸法を柱・梁等に付加しておくもので、木材の断面が大きいとゆっくり燃える性質を利用した設計法。柱・梁を厚く太くすることによって、木材の表面から内部へと燃え進む速度を抑えるわけだ。
 具体的には燃えしろ寸法を45mmとし、柱は3階までの通し柱が165mm角、2階までの通し柱が150mm角、梁は3間スパン・3尺ピッチで150×330mmなどとなっている。梁の上に張る床板は45mm厚とし、梁上部の燃えしろを兼ねるようにすることで梁背を抑えている。
 また、軒裏は野地板に杉パネル36mm厚、面戸板に杉材90mm厚を使って燃え抜け防止性能を高めたほか、屋根は登り梁に張った杉パネル36mm厚の上に断熱材90mm、捨て野地板、アスファルトルーフィングを施工してから瓦を葺いて、室内の火災時に30分以上屋根が壊れないようにした。
 これらの工夫によって、軒裏から室内まで登り梁と野地板が連続する木造らしい意匠を表現している。

耐震と防火を同時に確保

20110215_01_01.jpg 設計上のもう一つのポイントが、耐震性能と防火性能を一つの部材で向上させるという考え方。
 例えば、45mm厚の床板は梁にしっかり留め付け、野地板の杉パネル36mm厚は登り梁に川の字打ちで釘留め、面戸板の杉材90mm厚はボルトで柱・梁に緊結することで、燃え抜け防止とともに、高い剛性も確保。耐力壁には不燃材料認定の耐力面材を採用するなどの工夫によって、木造3階建てに求められる耐震性能を実現した。
 なお、施工にあたっては、狭い敷地内で長尺の太い材料を取り回すことが大変で、土台敷き後3日間かかった上棟もクレーン車が毎日欠かせない状況だった。ただ、上棟後の施工は一般的な木造住宅とほとんど変わらなかったという。
 設計を担当した桜設計集団一級建築士事務所の安井代表は「準防火地域で柱・梁などの木材が見える木造3階建てはできないと思っている設計者も多いが、工夫でここまでできる。準耐火構造に要求される防火性能を木材で確保できることを広く知ってほしい」と話している。

写真
燃えしろ分の45mmを含む150~165mm角の通し柱や150×330mmの梁などを使うことで、準防火地域でも木造らしい意匠の3階建て住宅を実現した(写真提供:桜設計集団一級建築士事務所)


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