新聞記事

2011年01月05日号から

温暖化防止を背景に第1種熱交換にも関心

 換気システムの採用動向に、ここ数年変化が見られるようになってきた。長期的に安定した換気性能が得られる第3種換気が主流であることに変わりはないが、住宅の快適性や省エネ性の向上を目指す中で第1種熱交換を選択肢として検討する住宅会社が出てきている。ここで改めて換気システムを取り巻く状況を見ていきたい。

換気設備と省エネの関係
空気浄化が主目的

20110105_02_01.jpg 現在、換気システムの種類としては、第3種や第1種熱交換のセントラルシステム、ダクトレスの第3種および第1種、パッシブ換気、第2種換気などを挙げることができるが、その中で主流となっているのが自然給気・機械排気の第3種セントラル。換気の最大の目的である換気性能を長期にわたって安定的に確保することができ、良好な室内空気質を維持するという点で信頼性が高いからだ。
 しかしその一方で、国内では地球温暖化の原因と言われるCO2の排出量削減へ向け、エネルギー消費量が少ない住宅を目指す動きが活発化。熱損失係数=Q値1・0Wを目標とするNPO新住協のQ1・0住宅や、道の北方型住宅ECOのほか、大手ハウスメーカーではゼロエネルギー住宅やCO2オフ住宅などと銘打った商品を開発・販売し、最近ではドイツ発の高省エネ住宅・パッシブハウスに取り組む住宅会社も目に付くようになってきた。
 このように、環境問題への関心や身近な地球温暖化への危機感などを背景とした省エネ意識の高まりによって、時にはユーザーから、時には住宅会社から「熱回収できる第1種熱交換を使いたい」という声が出てくるようになっている。
 住宅の省エネ化を進める手段としては、太陽光発電やヒートポンプなどの自然エネルギー利用・高効率設備の採用も有力な選択肢だが、世界の省エネ住宅の考え方は、住宅本体からの熱損失をできるだけ抑えたうえで、自然エネルギー利用やエネルギー効率の良い設備を導入するというのが基本。住宅全体の熱損失の3~4割は換気によるものだけに、第1種熱交換への期待は大きいと言える。

課題解決なら試験採用も

 ただ、熱交換換気を採用するにあたっては、これまで認識されていた課題が解消されていることが必要だ。
 その課題はと言うと、割高な設置コストや、2つのファンとヒーターを使うことによる消費電力の増加、フィルター清掃などメンテナンスを怠った時に引き起こされる窓の結露やシックハウスといった換気障害、そしてこれらを原因としたユーザーのクレーム感情だとされてきた。
 これらの課題が解決できるのであれば第1種熱交換を採用してみようと考え、久しぶりに、あるいは初めて換気の選択肢に入れる動きが出てきており、これまで第3種しか採用したことがない札幌市内のある工務店は「第1種熱交換は、ヒーター使用による消費電力の増加がどの程度になるのか、メンテナンスは簡単にできるのかがはっきりすれば、お客様に選択肢の一つとして提案したい。第3種と比べてどれくらい省エネになり、コストアップ分をどれくらいで回収できるのかをキチンと説明できるようになるからだ。後はお客様にどちらがいいか選んでもらえればいい」と話す。
 また、熱回収効果をQ値に反映できるので、小さい住宅などQ値計算に不利な住宅の場合、第1種熱交換換気の採用でQ値を小さくするといったことも考えられるほか、給気温度を上げることで厳寒期でも室内の快適性を維持できると考える住宅会社もあり、道内で換気システムを販売している各メーカーも来年中には概ね第1種熱交換を商品ラインアップに揃えると見られる

第1種熱交換のポイント
給気加温と省エネ

20110105_02_02.jpg 換気システムには第1種熱交換や第3種を始めいくつか種類があるが、第1種熱交換については意外と知らないこともあるのではないだろうか。そこでここでは、第1種熱交換の性能・機能の特徴や最近の製品のポイントなどについて各製品を通して改めて勉強してみたい。
 まず第1種熱交換は、その最大の特徴は排気の熱を給気に受け渡す熱交換ができる点にある。それによって1.給気の冷たさによる不快感が解消できるし、2.暖房負荷の低減にもつながる。
 熱交換効率については、メーカー公表値によると90~70%ほど。熱交換素子の仕様はメーカーによって様々で、一定以上の熱交換効率を確保するには、隙間からの給気をできるだけ減らすことが重要になってくるだけに、高い気密性能も求められ、0・5cm2/㎡以下が必要とする研究者もいる。
 また、熱だけでなく水蒸気も交換する全熱交換タイプであれば、3.夏の冷房節約 4.冬期の課題となっている過乾燥を和らげる効果も期待でき、熱だけを交換する顕熱交換タイプであれば、トイレや浴室などからの排気も熱交換可能だ。
 外気温が低くなってくると、熱交換素子のデフロスト(霜取り)のために熱交換を停止して専用ヒーターを作動させたりする製品もあるが、外気の取り込み経路をダンパーで閉じ、室内からの戻り空気を再循環させて、熱交換効率を維持する製品もある。

国ごとで異なるコンセプト

 市販されている製品を見ると、国内メーカーは全熱交換タイプが中心、欧米メーカーは顕熱交換タイプが中心。ただ、欧米では同じ第1種熱交換でも法律や気候風土の違いが製品開発に反映される傾向にあるようだ。
 例えば、冬期の気象条件が厳しいスウェーデンの製品は、室内環境の快適性向上を重視し、給気加温用のヒータ付きで本体は大型の金属製が主流。温度交換効率も誇示しない。一方、省エネが国策として進められているドイツの製品は、エネルギーロスをいかに抑えるかを重視し、ヒータがなく、本体内部パーツはエンジニアリングプラスチック製が主流となっている。
 なお、最近ではダクトレスの製品も市販されている。一定時間おきに給気と排気が切り替わり、本体内の蓄熱材で排気時には熱回収、給気時には新鮮外気の加温を行う仕組み。ヨーロッパでは累計6万台を販売した製品もあるといい、日本でも市場に受け入れられるかどうか注目される。

Q値計算で換気回数有利に

 第1種熱交換換気を採用する際に注意したいのは、性能評価や長期優良住宅の技術的審査、住宅エコポイント対象住宅証明などで、熱交換効率をQ値計算に反映させる時。
 次世代省エネ基準では熱交換換気を採用した住宅の場合、熱回収効果を考慮して0・5回/時より少ない換気回数でQ値を計算できることになっているが、そのためにはメーカーが出す『換気用消費電力増分量』の数値が必要であることを覚えておきたい。パワーズトレーディング(株)が輸入販売しているカナダ製熱交換換気システム「ライフブレス」や国内メーカーの一部機種で数値を公表しているが、ライフブレスでは機種によるものの換気回数を約0・13~0・2回/時としてQ値を計算可能だ。
 また、これまで第1種熱交換換気の課題と言われていた給気と排気の2つのファンによる電力消費や、熱交換素子とフィルターのメンテナンスなどはどうかというと、電力消費の点ではDCモーターの採用や、給排気を一つのファンで行う方式の採用、第3種・第2種換気への切り換えモード採用などによってシステムの省エネ化を図る製品が目に付く。
 熱交換素子とフィルターのメンテナンスに関しては、多くの製品が給排気ファン・フィルター・熱交換素子のいずれも容易に取り外し可能として、メンテナンス性を高めているほか、製品によってはメンテナンス時期のお知らせ機能搭載や、水洗い可能なアルミ製熱交換素子の採用、点検しやすい本体の壁掛け設置なども行っている。
 このほか、独自の機能・制御で室内の快適性向上を図る製品もあり、例えば(株)ウエスト札幌営業所が販売する顕熱交換タイプの「Temovex」では、夏の夜間など屋外が涼しく、室内が暑い時は、屋外の新鮮空気を熱交換せずに給気するオート・バイパス機能を搭載。1年を通して室内を快適に保つように考えられている。

第1種熱交換換気のイメージ(『北方型住宅の熱環境計画』より)


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