「仕事の中では女性であることを意識させないよう、中性的にふるまうことも多い」という川村弥恵子さん。彼女が手がける住宅は繊細なこだわりがあふれている。
「なんかいい」を感じる力
「人間は、ほんのわずかな差を感じるセンサーを持っているんです」。そう言って、家具用の薄い突き板と厚めの挽き板を並べて見せてくれた川村さん。なるほど、たった0・6㎜ほどの違いでクオリティの差を感じてしまう。板の数㎜の厚さや、コンセントのちょっとした位置の違いが「なんかいい」を生み出すという。
川村さんは戸建住宅を中心に手がける建築家として、施主の要望を一から聞き、一緒に家を造り上げる。しかし施主にとっては、言葉でなかなか説明できないことも多い。そのひとつが「なんかいい」という感覚だ。
川村さんの頭の中にある「なんかいい」とは、理屈抜きの気持ちよさ。そのためなら、わかりづらくて面倒な注文にも応えるといい、「細かいところが気になるのは女性が多いかもしれません。私もどんなに細かいことを言われても苦にならないです」と、頼もしい。
「簡単でわかりやすい家ばかり造ろうとすると、絶対良いものができない。どこか手間をかける部分がないとね」と話すように、施主の価値観はじっくり時間をかけて聞いている。
(写真...川村弥恵子さん)
手間と言葉を重ねてこそ
川村さんのプロジェクトでは、結果的に信頼感のある工務店や設備・板金など職方さんたちと一緒に仕事をすることが多い。「ポイントは、人としての良心と安心感があること。建築家との仕事は、手間のかかる注文を何度も出されて面倒なものです。それをいとわず、逆におもしろがって、少しでもいいものを造りたいという誇りを持っている人は、一緒に仕事をして気持いい」。
建築家と工務店の密なコミュニケーションがあってこそ良い家が生まれる、と川村さんは考えている。コミュニケーションを意識したのはアメリカ時代。女性経営者でスタッフも9割以上が女性という、ウーマンパワー全開のインテリア事務所に勤めた。常にミーティングや対話を欠かさず、本音をぶつけあっていたという。
しかし帰国してかかわわった建築の業界は、まったく正反対の男の世界。駆け引きや探り合いなどはもちろん、何より重要な部分は男性の責任者が決め、社員と話し合って決める雰囲気がなかった。
この体験が独立を決断するきっかけにもなったようだ。「それに女性が求めるのは、こまめなコミュニケーション。"言わなくてもわかるだろ"は、全然通じないですよ」と笑う。
手間や言葉を重ねることをいとわず、本当に良いものを。それこそ川村さんが貫く姿勢なのだ。
(写真上...室内と屋外がつながる暮らし 写真下...人も登れる猫棚(ねこだな)。家を建てたら猫を飼いたいという施主のために)
新聞記事
2009年07月05日号から
"本当に良い家"をつくるために/ウーマンズ・アイ Vol.2
札幌・㈲TAO建築設計 川村弥恵子さん 一級建築士 デザイナー
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