新聞記事

2009年03月15日号から

夕張の病院改修で

20090315_2_1.jpg NPO法人シックハウスを考える会(上原裕之代表)が主催する夕張医療センター改修プロジェクトに関するセミナーが7日に開かれ、設計事務所など建築関係者らが参加。断熱レベルの低い既存建築物の改修による省エネ効果や環境改善効果についての研究者らの話に、熱心に耳を傾けた。
 夕張医療センター(旧夕張市立総合病院)は、築30~40年のRC造3階建てで、建築当時は豊富な石炭を暖房に使えたため、建物自体の断熱性が低く、開口部はアルミサッシのシングルガラス仕様。
 病棟の温熱環境は劣悪で、入院患者はほかの病気まで背負い込むほど悪影響がある現状だという。
 同センターを運営する医療法人財団夕張希望の杜理事長の村上智彦氏によると、2人部屋の病室は現在、窓際の強烈な冷気により1人部屋としてしか使えず、それでも寒いために風邪を引く入院患者がいる。入浴介助も浴室内にシャワーを大量に散布して温度を上げながらでないと介助者も震えるほど寒い。サッシメーカーの好意で樹脂内窓を一部に取り付けたところ、2人部屋が2人部屋として使えるようになり、入浴介助もスムーズにできるなど、環境が劇的に改善。光熱費の低減で経営面でもいい影響が出てきたという。
 アルミシングルサッシに樹脂製内窓を後付けすることで環境改善と省エネ効果が上がることがわかり、室蘭工業大学鎌田紀彦教授や北海道大学の教授陣の協力を得て断熱改修プロジェクトを立ち上げ、改修前後で患者の健康状態にどのような変化が生じるのかなどを今後科学的に検証する。
 講演した鎌田教授は断熱改修でどの程度の暖房費削減を狙っているかを説明。
 同センターは、171床の総合病院だったが、最盛期の10分の1に人口が減ったため、現在はベッド数を10分の1の規模に縮小し、2階、3階を使わず運営している。1階の窓に樹脂製内窓を付けると、断熱性能は推定で熱損失係数(Q値)2・63Wから1・92Wに向上し、年間で重油が約3割、額にして約400万円削減できると見積もった。
 鎌田教授は「RC建築は、木造ほどお金をかけなくても窓や換気の改修だけでそれなりに断熱改修の効果が出る。今回の改修プロジェクトでそれを実証したい」と話した。
 北海道大学の羽山広文准教授は慢性疾患の死亡リスクと住宅との関係を発表。
 慢性疾患による死亡者数は季節変動が大きく、65歳以上の高齢者が心疾患や脳血管疾患、家庭内溺死で死ぬ割合は冬に多いことを示した上で、浴室やトイレと居室との温度差が大きいと血圧変化も大きく、高齢者にとってリスクになるとした。全国の地域別のデータでは、冬は北海道よりも温暖な地域で心疾患・脳血管疾患による死亡リスクが高くなることから、住宅の断熱性能と何らかの関連があるのではないかと見解を示した。
 最後に夕張希望の杜・村上理事長は「断熱改修の経済的効果について、燃料費削減だけでなく医療費の削減という面からも大きな期待が持てることを検証したい」と意義を説明した。 
 
(写真上から...室蘭工業大学・鎌田紀彦教授、北海道大学・羽山広文准教授、シックハウスを考える会・上原裕之代表、夕張医療の杜・村上智彦理事長)


試読・購読のお申し込みはこちら 価値のある3,150円


関連記事

powered by weblio


内容別

月別

新着記事