新聞記事

2008年12月05日号から

省エネ政策まとまる

09年度以降 全体の水準底上げ

住宅省エネ基準と住宅性能表示制度評価方法基準の改正案、そして年間150戸以上の建売住宅を建設する業者を対象とした住宅事業建築主の判断の基準案(トップランナー基準案)が相次いで国土交通省から発表された。今後のシナリオとして、トップランナー基準案を元にした省エネラベリング制度の導入などが考えられそうだ。
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気密省き断熱に特化
 このほど国交省から発表されたのは、1.住宅省エネ基準の「建築主の判断基準」と「設計・施工の指針」の改正案、2.品確法に基づく「住宅性能表示制度評価方法基準」の改正案、3.新設された建売住宅業者対象の「住宅事業建築主の判断の基準案」の3つ。いずれも政府案であり、パブリックコメントを募集中で、内容が変わる可能性もある。
  1.の住宅省エネ基準改正案については、一般に次世代省エネ基準と呼ばれている平成11年基準から各地域ともQ値に変更はなく、気密性能(相当隙間面積)、気密層施工、暖冷房、換気量などの基準が削除され、断熱性能と省エネ性能(暖冷房負荷)だけを規定する案となっている。
 もちろん、断熱材本来の性能を発揮させるためには壁内結露を防ぐ防湿・気密層の施工や気流止めが欠かせない。壁体内結露対策に関しては2.の性能表示評価方法基準案の中の省エネルギー対策等級で新たな項目が追加・拡充されており、決して気密化はやらなくていいという話ではない。
  3.は年間150戸以上の建売住宅を建設する業者を対象としたトップランナー基準案で、断熱性能と設備機器の効率を総合的に評価する。2013年を目標年度に、平成11年基準を満たす躯体に現時点での一般的な設備機器を設置した住宅と比べ、一次エネルギーで10%削減できる省エネ性能の達成状況を報告するよう定めている。もし、この水準に満たない場合、省エネ性能向上の勧告や業者名公表、罰則といった措置が取られることもある。

20081205_3_3.jpgまず11年基準クリア
  単にこれらの基準案を見ただけでは、住宅省エネ基準はむしろ後退、性能表示は任意、トップランナー基準は一定規模の建売業者対象ということで、多くの住宅会社には「関係ない」と思える。
 ただ、道立北方建築総合研究所環境科学部主任研究員の鈴木大隆氏は「地球環境のためには、まずすべての住宅の断熱水準をボトムアップすることが急務。その時に達成してほしい最低水準は平成11年の住宅省エネ基準であり、今回はその普及を図るための改定。そして事業主基準(トップランナー基準)は将来の住宅省エネ基準の一つのひな形になっていくだろう」と話している。
 住宅分野での省エネ化・CO2削減を進めて行くためには、注文住宅など業界の一部だけでなく、全体の断熱水準を上げることが必要。そのためにはボトム対策として断熱化が遅れていると言われる建売住宅や賃貸アパートなど小規模な集合住宅の断熱性能をいかに上げるかがカギになる。
  そこで国交省ではボトム対策として、トップランナー基準を含む改正省エネ法によって、建売住宅と小規模な集合住宅を、それぞれ省エネ規制のアミにかけると同時に、トップランナー基準と省エネラベリング制度の連動などを考えているようだ。
 具体的には、改正省エネ法で新たに平成22年4月から300m2以上2000m2未満の住宅・建築物にも省エネ措置の届出を義務付けることによって、等級 3(平成4年基準相当)にも及ばないと言われている多くの小規模集合住宅の省エネ性能引き上げを図る。そしてさらに改正省エネ法に追加されたトップランナー基準により、2013年度までアパートと同様に高断熱化が遅れている建売住宅の省エネ水準を高める考えだ。

20081205_3_2.jpgラベリング制度は中小に追い風
 一方、省エネラベリング制度は、家電製品でおなじみのもので、国が定めた省エネ目標値=トップランナー基準を達成しているかどうか、達成率はどのくらいかなどを表示したラベルを製品に貼付する仕組み。
住宅版の省エネラベリング制度は、建売だけでなく注文住宅なども対象にしてトップランナー基準を運用することが考えられる。このかたちで始まると、今まで省エネに熱心に取り組んできた中小の住宅会社にとっても追い風となりそうだ。

TR(トップランナー)基準は高水準
 今回発表されたトップランナー基準案を見ると、達成するのはそう簡単ではない。基準で使われる一次エネルギー消費量は地域ごとに躯体の断熱性能と、暖冷房、給湯、照明、換気との組み合わせで計算するようになっており、仮に高効率設備を使わない場合、Q値は熱交換換気を含まずにⅠ・Ⅱ地域で1.4W、Ⅲ~Ⅴ地域で1.9Wなどとする必要がある。
 なお、同基準では北海道を道北・道東中心のⅠa地域と、道央・道南中心のⅠb地域に分けているが、国交省のホームページに掲載されている断熱と高効率設備の組み合わせから判断すると、例えばⅠa地域では標準プランをもとに一定の条件で算出した一次エネルギー消費量の基準値に対し、断熱性能が平成11年の住宅省エネ基準以上であれば熱交換換気との組み合わせで基準相当の性能レベルになる。

20081205_3_4.jpg一次エネ消費量は熱源・設備で一変
 ただしこれらの例は石油を暖房・給湯熱源に使った場合。Ⅰa地域で給湯の一次エネ消費量は、石油・ガス熱源の従来型給湯機に対し、電気熱源のヒートポンプ式電気温水器だと若干少なくなるが、ヒーター式電気温水器では2倍以上に増加する(いずれも節湯機器、太陽熱温水器ともに無い場合)。これは暖房も同じ傾向で、生だきのオール電化住宅にとっては厳しい条件となる。
 北総研・鈴木氏は「一次エネルギーで10%削減は決して低い目標ではなく、例えば断熱と設備の組み合わせなら平成11年の住宅省エネ基準(等級4)レベルの断熱とし、高効率給湯・節湯機器の導入、または地域によるが熱交換換気の導入など。断熱だけでクリアしようとすれば北海道ではQ値1・4W、本州なら同 1・9Wの断熱を行う必要がある。いずれにしても相当高いハードルだが、住宅の省エネ化を本当に実現していくためには、今後こういう考え方をトップランナー基準適用対象外の住宅会社にも認識してもらうことが重要になる」と話している。


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